母の炊き込みご飯

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

炊き込みご飯(フリー写真)

俺は小学生の頃、母の作った炊き込みご飯が大好物だった。

特にそれを口に出して伝えた事は無かったけど、母はちゃんと解っていて、誕生日や何かの記念日には、我が家の夕食は必ず炊き込みご飯だった。

高校生くらいになると流石に『またかよっ!』と思うようになっていたのだが、家を離れるようになっても、偶に実家に帰ると待っていたのは母の

「炊き込みご飯作ったよ。沢山食べなさい」

の言葉だった…。

ある日、会社に電話が来て、慌てて向かった病室には既に親戚が集まっていた。

モルヒネを打たれ意識の無い母の手を握り締めると、母の口が動いた。

何かを俺に言いたそうだった。母の口元に耳を近付けると、

「炊きこ……たよ。たくさ……さい」

と消え入りそうな声で言っていた。

それが最後の言葉だった。

「ママの作ったスパゲッティー大好き!」

口の周りを赤くしてスパゲッティーを食べる娘と、それを幸せそうな目で見つめる妻を見る度に、母の炊き込みご飯が食べたくなる。

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