母のエプロン
社会人になって初めて迎えた母さんの誕生日。
「いつもありがとう」という言葉を添えて、プレゼントを渡したかった。
でも照れ臭いし、もし選んだプレゼントが気に入ってもらえなかったらと思うと怖かった。
それで、
「選ぶのめんどいから」
と嘘を吐いてデパートへ連れて行き、
「何でもいいから適当に買えよ」
とぶっきらぼうに言った。
そしたら、
「高いエプロンだけどいい?」
とおずおずと見せに来て、値札を見たらたったの三千円。
「こんな安物かよ」
とひったくって後ろを向き、泣きそうな顔を見られないようにレジに走った。
服でもバックでも、他に何でもあるだろ。財布の中に給料全部入れてきたんだぞ!
そう思うと涙が出たけど、トイレで急いで顔を洗い、素知らぬ顔で袋を渡した。
そしたら、母さんが嬉しそうにその袋を抱き締めたのを見て、また泣きそうになった。
※
今でも帰る度に、そのエプロンを着けて飯を作ってくれて、ありがとう。
ほんと美味いよ。世界一だ。
いつも素直になれなくてごめん。
マザコンでもいいよ、母さん大好きだ。