
クリスマスの数日前、6歳の娘が、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていました。
ピンクのキティちゃんの便箋が、丁寧に折りたたまれていて。
「何が欲しいのかなぁ」と、私と夫はそっとその手紙を開いて、中を覗いてみました。
※
そこに書かれていたのは、私たちの想像とはまったく違うものでした。
「サンタさんへ おとうさんのガンがなおるくすりをください! おねがいします」
……それだけ。
可愛らしい丸文字で、まっすぐに綴られていました。
※
私たちは顔を見合わせ、思わず苦笑いしてしまいました。
でも、だんだんと胸が詰まり、私は小さくメソメソと泣いてしまいました。
泣いても仕方ないと思いながらも、止まらなかった。
娘の小さな心の中に、どれだけ大きな不安があったのか。
その気持ちが痛いほど伝わってきたのです。
※
その夜、娘が眠った後。
夫は黙って、娘の机にプレゼントを置きました。
娘が大好きなプリキュアのキャラクター人形と、白い粉薬の袋。
袋には、夫の丁寧な字でこう書かれていました。
「ガンがなおるおくすり」
※
翌朝、娘は目を覚ますなり机へ走り、プレゼントを見て「ギャーっ!」と大喜び。
人形よりも、薬の袋を見て跳び上がらんばかりに喜びました。
パジャマのまま、どたばたとリビングに駆け込んできて――
※
「ねえ! サンタさんからお父さんのガンが治る薬もらったの!」
「はやく飲んでみて!」
そう言って、夫に“薬”を差し出しました。
夫はにっこり笑って、袋を開けて粉薬を口に運びました。
そして少し芝居がかった声で、
「おっ、なんだか体の調子が、だんだんと良くなってきたみたいだぞ!」
と娘に向かって言いました。
※
娘はパッと顔を輝かせて、
「ああ! 良かった~! これでまた、お父さんと山にハイキングに行ったり、動物園に行ったり、運動会にも出られるね~!」
と、満面の笑みで言いました。
それを聞いた瞬間――
夫の顔が、少しずつ、悲しく歪んでいきました。
やがて、声を押し殺すようにして、
「ぐっ、ぐうっ……」
と、小さく泣き出したのです。
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私は、もらい泣きしそうになりました。
でも泣いてしまうと、娘に気づかれてしまう。
だから、何でもないような顔をして、味噌汁をすくって、無理やり口に運びました。
味もよくわからないまま、ただ飲み込んで、気持ちを整えました。
夫は娘に向かって、照れ笑いしながら言いました。
「薬の効き目で、涙が出てきちゃったんだ」
※
その後、娘はプリキュアの人形を持って、近所の友達の家に遊びに行きました。
その静けさの中で、夫がぽつりと言いました。
「……来年は、お前がサンタさんだな。しっかり頼むぞ」
私はもう、我慢できませんでした。
わあわあと声をあげて泣きました。
お椀の中の味噌汁に、涙がいくつも落ちて、静かに溶けていきました。
※
サンタさん、どうか娘の願いが届きますように。
たとえそれが奇跡でしか叶わないとしても、私たちは信じて、願い続けます。