ぽっけ
「このぽっけ、すごいねんで!!(`・ω・´)三3ムフー!!」
そう言って幼稚園の制服のポケットをパンパン叩いていた友達Aの息子。
ポケットにはハンカチ、ティッシュ、お菓子、小指の先サイズのドラえもん、母親とのプリクラ、それにムシキングカードなどなど…。
その子にとっての宝物が詰まっていた。
「ぽっけ叩いたら欲しいもん何でも出てくんねん(`・ω・´)三3フンフン!!」
それを聞いて少しイジワル言ってみた。
「じゃあミニカー出してみて」
前から欲しがっていたが、持っていない事は知っていた。
その子はムキになって、
「あるもん!!フン!フン!」とポケットをパンパン叩いて宝物を散らかして行った。
私はその子の隙を見て、予め買っておいたミニカーをそっとポケットに忍ばせた。
「フン!…あっ!!…フフ~ン♪」
得意気に出て来たミニカーを私に見せびらかしていたが、物陰で
(´・ω・`)??
という顔をしていた。
かなり萌えた。
※
ある日、Aが死んだ。脳溢血だった。
職場で突然倒れ、そのまま逝ってしまった。
友達はいわゆるシングルマザーで、家族は60歳を過ぎたご両親だけ。
私達も悲しみに暮れる間も無く、葬儀の準備の手伝い、関係者への連絡などで忙殺されていた。
その間、彼はずっとジュウレンジャーの絵本を何度も何度も読んでいた。
※
通夜が始まり暫く経った頃、彼が居ない事に気付いた。
私と手の空いた者が付近を探した。
暫く探していると友達Bから着信。
小さな公園で見つけたとの事。
急いで駆け付けると、Bは公園の入口で、どういう訳か蹲って泣いていた。
フッ…と公園の中を見ると彼が居た。
暗い街灯の下、
「…お母さん、お母さん…お母さん…」
と泣きながら必死にポケットを叩いてた。
周りには宝物が散らばっていた。
恥ずかしながら20代女が、その子を慰める前に暫くの間、泣き崩れてしまいました。
声を殺して抱き締める事しか出来なかった。
いつの間にか集まっていたみんなも泣いていた。
あの日は全てが悲しくて仕方が無かった。
※
あれから二年。
もうポケットは叩く事は無くなった。
代わりに、
「ぐらふぃっくあーてぃすとになんねん(`・ω・´)三3ムフー!!」
が口癖になった。
最近、ずっと絵を描いているのはそれだったのか。
どうやらBが、
「お母さんの夢やったんよ」
と教えたらしい。
その話を聞いた瞬間、また泣いてしまった。
子供の言葉で、何だかこちらの方が救われた気がしたんです。
少し画家と混同しているみたいだけど、頑張れ。
君には5人のお母さんが付いているぞ。
その日までちゃんと、Aの分まで全力で見守っているからね。