ばあちゃんいつまでもげんきでね
ばあちゃんの痴呆症は日に日に進行し、ついに家族の顔も分からなくなった。
お袋のことは変わらず母ちゃんと呼んだが、それすらも自分の母親と思い込んでいるらしかった。
俺と親父は、ばあちゃんと顔を合わせる度に違う名前で呼ばれた。
※
ある時、お茶を運んで行くと、ばあちゃんは俺に
「駐在さんご苦労様です」
とお礼を言って話し始めた。
「オラがちにも孫がいるんですけんど、病気したって見舞い一つ来ねえですよ…。
昔はばあちゃん、ばあちゃんって、よくなついてたのにねえ…」
そう言ってばあちゃんが枕の下から取り出した巾着袋には、お年玉袋の余りとハガキが一枚入っていた。
よく見るとそれは、俺が幼稚園の年少の時、敬老の日にばあちゃんに出したもので、
「ばあちゃんいつまでもげんきでね」
なんてヘタクソな字で書いてあった。
俺は何だか悔しくて悔しくて、部屋を出た後でめちゃくちゃ泣いた。