最後の仲直り

金持ちで、顔もそこそこ。
何より、明るくてツッコミが抜群に上手い男だった。
ボケた方が「俺、笑いの才能あるんじゃね」と勘違いしてしまうくらい、絶妙なツッコミを入れてくる。
そんな彼の周りには、いつも笑いがあふれていた。
みんな彼のそばにいたがったし、俺もその一人だった。
だけど、そんな彼を怒らせてしまった。
彼がずっと想いを寄せていた女の子に、俺たちはノリで無理やり電話をかけさせた。
ふられて落ち込む彼を見て、俺たちはゲラゲラと笑い飛ばした。最低だった。
そして一番仲が良かった俺が、一番激しく彼に怒られた。
それ以来、俺たちは口をきかなくなった。
周りの友達が同窓会や飲み会を開いて、仲直りするきっかけを何度も作ってくれたけれど、俺は意地を張って謝らなかった。
心のどこかに、
「なんで俺にだけ、あんなに怒鳴ったんだよ」
という気持ちがあったのだと思う。
そんな気持ちのまま、気づけば周りの友達とも疎遠になっていった。
※
ある日、久しぶりにその疎遠になった友達の一人から電話がかかってきた。
でも、俺は出なかった。
何度も何度も鳴るコールに、
「しつこいな」「なんだよ、今さら」
としか思えなかった。
※
その年の年末、一通の葉書が届いた。
年賀状辞退の案内だった。
彼は、その年の夏に亡くなっていた。
あのときの電話――
あれは、彼の葬式への連絡だったのだと、ようやく理解した。
けれど、葉書には住所が書かれていなかった。
俺は恥も外聞もかなぐり捨てて、彼の家に連れて行ってほしいと頼んだ。
頼んだ相手は、かつての友人だった。
彼は、どこか嬉しそうにこう言った。
「お前に久しぶりに会えて、嬉しいわ」
※
彼の家に着くと、応対してくれたのは彼の奥さんだった。
結婚したという噂は耳にしていたが、会うのは初めてだった。
まあ、あれから20年以上経ってるんだ。結婚していて当然かもしれない。
彼の奥さんは、出会ってすぐにこう言った。
「○○さんですね(笑)。会ってみたかったんですよー」
俺が「え?」と戸惑っていると、彼女は続けた。
「夫がね、あなたのこと、『友達の中で一番面白かった』って言ってました(笑)」
その瞬間、俺の目から涙がこぼれた。
連れてきてくれた友達も、彼の奥さんも、一緒に泣いてくれた。
※
そして彼の奥さんが、彼の最期の伝言を伝えてくれた。
「○○は、絶対来てくれるから。俺が死んだら(笑)」
そしてもう一言、優しく笑いながらこう言った。
「これで、仲直りですよ(笑)、○○さん」
※
なんでもっと早く、会いに行けなかったんだろう。
あのとき、素直に謝っていればよかった。
だけど――いつか俺も、そっちに行くときが来たらさ。
そのときはまた、あの頃みたいに笑わせてくれよ。
そして、思いっきりツッコんでくれ。
「おせーよ、バカ!」ってさ。