ドーナツと小さな願い

ドーナツ

日曜日、私はミスタードーナツで心温まる一幕を目撃しました。

店内には、若いお父さんと彼の3歳くらいの目がくりくりした可愛らしい男の子が席につきました。彼らは私の背後に座り、肩越しに彼らの会話が聞こえてきました。

男の子は嬉しそうに「どーなつ、おいしいねぇ」と言いました。お父さんも「ん、美味しいね」と応じました。

すると、男の子が「おかーちゃんにも、あげたいねぇ」と言いました。お父さんはただ「そだね」と答えるだけでした。

次に、男の子が「おかーちゃん、いつおっき?」と尋ねました。お父さんは少し考えた後、「んー、お母ちゃんはとっても疲れてるから。いつ起きるか分からないな」と答えました。

子どもは夢中で「ゆーえんちいきたい!かんらんしゃ!おかーちゃんいっしょ!」と続けました。お父さんは「そだね。お母ちゃんと行きたいね、三人で。お母ちゃんが起きたら…」と言いました。

男の子が「おとーちゃん? だいじょうぶ? えーんえーん?」と心配そうに尋ねると、お父さんは声を詰まらせながら「大丈夫。えーんえーんしてないよ。お父ちゃんは大丈夫だから」と答えました。

このやり取りを聞きながら、私は涙を堪えるのがやっとでした。この親子が何を経験しているのかは私には分かりませんが、小さな男の子の無垢な愛と、彼を支える若いお父さんに幸せが訪れることを心から願いました。

関連記事

老人の手を握る(フリー写真)

祖父の気持ち

まだ幼い頃、祖父を慕っていた私はよく一緒に寝ていました。 私は祖父のことをとても慕っていたし、祖父にとっては初孫ということもあって、よく可愛がってくれていました。 小学校…

震災の日

サンタから預かったDS

私は、宮城県に住んでいる。 その日も朝から、寒空の下、スーパーの前に長い列ができていた。 並んでいた私の前には、母親と、泣きべそをかいた小さな男の子がいた。 ※ …

美しい人生(フリー写真)

お帰りなさい

マニュエル・ガルシアは元気で頼もしく、近所でも働き者と評判の父親だった。 妻に、子供に、仕事に、将来、全て計画通りに運んでいた。 ある日、マニュエル・ガルシアは腹の痛みを訴…

母と子(フリー写真)

懸命に育ててくれた母

私の父は幼い頃に亡くなり、母は再婚せずに私を育ててくれました。 母は学歴も技術もなく、個人商店のような仕事で生計を立てていました。 それでも、当時住んでいた土地は人情が残…

スケッチブック(フリー写真)

手作りのアルバム

うちは貧乏な母子家庭で、俺が生まれた時はカメラなんて無かった。 だから写真の代わりに、母さんが色鉛筆で俺の絵を描いてアルバムにしていた。 絵は決して上手ではない。 た…

駅のホームに座る女性(フリー写真)

貴女には明日があるのよ

彼女には親が居なかった。 物心ついた時には施設に居た。 親が生きているのか死んでいるのかも分からない。 グレたりもせず、普通に育って普通に生きていた。 彼女には…

キャンドル(フリー写真)

キャンドルに懸けた想い

僕は24歳の時、当時勤めていた会社を退職して独立しました。 会社の駐車場で寝泊まりし、お子さんの寝顔以外は殆ど見ることが無いと言う上司の姿に、未来の自分の姿を重ねて怖くなったこと…

廃墟

神戸からの少女

2年前、旅行先の駐屯地祭での出来事です。 例によって、特定の市民団体が来場し、場の雰囲気が少し重たくなっていました。そのとき、女子高生と思しき一人の少女がその団体に向かって歩い…

親子(フリー写真)

父と過ごした日々

2年前、父を癌で亡くしました。 癌が発覚したのはその3年前。風邪が治らないと病院に通い、それでも治らず精密検査をしたら肺癌が見つかりました。しかもリンパにも転移していました。 …

雨

雨の中の青年

20年前、私が団地に住んでいた頃のことです。 ある晩、会社から帰宅すると、団地前の公園で一人の男の子が、雨の中傘もささず、向かいの団地をじっと見つめていました。 その様子…