残された兄妹
3年前、金融屋をやっていたんだけど、その年の夏の話。
いつものように追い込みを掛けに行ったら、親はとっくに消えていたんだけど、子供が二人置いて行かれていた。
5歳と3歳。上は男の子、下は女の子。
俺はまだペーペーで、周りの兄さんらと違って顔も怖くなかったらしく、家に行ったらすぐに下の子に懐かれた。
ボロボロの服で、風呂にも入っていなくて、
「いつから親は居ないんだ?」
と聞いても答えない。
「何食ってたんだ?」
と聞いたら、上の子は下を向いて泣いた。
そしたら下の子が、
「こっち」
と俺の手を引き、裏庭へ連れて行った。
※
破れた金網を通って出た所は、小学校の裏庭だった。
「あのね、みーちゃんこれ食べたの」
と池を指差す。
嫌な予感がした。
だってさ、その池には金魚がウヨウヨ泳いでいるんだよ…。
二人を抱きかかえて家に戻ると、テーブルに小さなボウルと茶碗。
「お前ら…金魚食ってたのか…」
と聞いたら、
「…うん」
すっげーやるせなくて涙が出て、俺もその場に居た兄さんらも泣いた。
すぐに兄さんが沢山の食べ物と洋服を買って来た。
近くの銭湯で体を洗ってやった。
※
その後、俺らじゃどうしようも無いから施設に連絡を入れた。
連れて行かれる時に、
「お兄ちゃんありがとう」
と言っていた。
…全然ありがとうじゃねーよ…俺たちがお前らの親を追い詰めたのに。
俺を含めて何人かはこの後、仕事を抜けた。
※
ただ救われたのは、その子達の親がきちんと出て来た事だった。
その子達の親は、気になって戻って来たら子供が居なくなっていてショックだったそうだ。
ただし、家の至る所に連絡先を書いて来たから、すぐに判ったらしい(もちろん施設のな。事務所だったらびびって逃げるから)。
子供を迎えに行った時に、自分達のやった事の重大さに気が付いたそうだ。
俺はもう足抜けしていたし、気になっていたからちょくちょく施設に見に行っていたんだけど、親が改心して良かったよ。
結局、俺が事務所の仲介をやって、職も一緒に探してやったんだ。
「また金魚でも食わせたら内蔵売っぱらうからな!」
と脅してさ。
借金の返済はまだ残っているだろうけど、両方共すげー働いているだろうな。