兄ちゃんはヒーローだった
兄ちゃんは、俺が腹が減ったと泣けば、弁当や菓子パンを食わせてくれた。
電気が点かない真っ暗な夜は、ずっと歌を唄って励ましてくれた。
寒くて凍えていれば、ありったけの毛布や服を被せてくれた。
何人もの男が怒号を上げて部屋に入って来た時は、押し入れに隠して庇ってくれた。
※
兄ちゃんは俺の神様で、ヒーローだった。
いつだって体を張って、俺を守ってくれていた。
例え二人きりでも、いつだって安心出来た。
だから全然気付かなかった。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
俺に食わせるために毎日、万引きしていたんだってな。
父ちゃんと母ちゃんがお金を送ってくれたとか、全部嘘だったんだな。
二人とも借金でどうしようもなくなった挙句、俺たちを置き去りにして消えちゃって…。
でも借金取りの追跡が怖くて、
「すぐに帰って来るから、居ないことは誰にも言うな」
なんて言い残したものだから、兄ちゃん、誰にも助けを求められなかったんだってな。
泣き喚く俺を抱えて、どんなに怖かったか、不安だったか。
だけど見捨てもせず、怒りもせず、最後まで面倒を見てくれたんだな。
※
結局、兄ちゃんは万引きで捕まって、家に警察が来た。
呼び出された親戚は兄ちゃんを怒った。
でも、例え褒められた方法じゃなくても、親との約束を守り、俺を守った兄ちゃんは格好良かったと今でも思っている。
※
それから一週間くらい後だったかな。
兄ちゃんが父方、俺が母方の親戚に引き取られた日が、兄ちゃんを見た最後だった。
今、どこに居るんだよ。
元気でやっているのか。
会いたいよ。会ってありがとうと言いたいよ。
大好きだって言いたいよ。
普通の兄弟みたいに遊んだり、喧嘩したりしたいよ。
あの頃は大変だったな、なんて格好つけて語る兄貴の武勇伝を聞いて笑いたいよ。
いつか会えるよな、絶対。