天国の恩人

公開日: 仕事 | 心温まる話

日記帳(フリー写真)

私はキャバクラ嬢でした。

家がとても貧乏で、夜に働きながら大学へ行きました。

そんな私の初めてのお客様。

Yさん、70歳のお爺ちゃんです。

彼はとても口下手で、殆ど話しません。

何か話しかけても、

「うん。そうだね」

という返事が返ってくるだけです。

でも毎週来てくれました。

時には同伴もしてくれました。

私は必死で話しかけましたが、いつも優しく笑うばかり。

とても不思議な人でした。

夜の仕事をしていると、

「休みの日に会いたい」「ホテルに行きたい」

など、そんなことを言う人が殆どですが、彼は一切そんなことは言いませんでした。

私がピンチな時は、決まって助けてくれました。

いつも静かにウィスキーを飲み、午前0時には帰って行きます。

大学の卒業が決まり、夜の仕事を卒業する日。

いつもと変わらず来店してくれて、お疲れ様の言葉をくれました。

翌日に珍しく彼の方からメールが来ました。

『今までお疲れ様。

本当によく頑張ったね。

君と過ごした時間は本当に楽しかった。

これからは昼の人間。

今まで夜の仕事で出会った人とは、もう関わってはいけないよ。

夜の世界に戻って来てはいけないよ。

もちろん僕とも…。

いつでも君のことを応援しています。

もう会うことはないけれど、どうか夢が叶いますように。

頑張れ︎』

私は彼の言う通り、夜の仕事で出会った人との連絡は断ちました。

でも、彼の連絡先だけは消せませんでした。

毎年一度だけ、彼の誕生日にメールをしました。

『誕生日おめでとう。

体調崩してませんか?

この間、初めての契約が取れました』

『誕生日おめでとう。

お元気ですか?

私は後輩ができました。

仕事頑張ってます』

『誕生日おめでとう。

毎年約束を破ってすみません。

仕事が上手くいかなくて、正直辞めたいです。

もう頑張れないよ…』

3年目のメールで初めて返信が来ました。

『突然のメール申し訳ございません。

Yの娘です。

先日、父はガンで他界しました。

貴女に伝えたいことがあって、メールさせていただきました。

父の日記です。

父の想いが伝わったら幸いです。

お仕事頑張ってください』

ここからが彼の日記です。

『今日も彼女は楽しそうに大学の話をしてくれた。

夢を語る彼女はキラキラしてる。

応援していますよ』

『今日はお寿司を食べに行った。

本当に美味しそうに食べてくれて嬉しかった。

昼は学校、夜は仕事。

ちゃんと寝てるのか心配だ』

『進級おめでとう。

あと一年で卒業ですね。

応援してます。

最近遊びほうけてるみたいだけど、ちゃんと勉強もするんだよ』

『就職が決まったようだ。

おめでとう。

夢への第一歩ですね』

『やっと卒業した。

夢に向かって頑張ってほしい。

頑張り屋さんだからきっと大丈夫。

頑張れ︎』

『誕生日のお祝いメールが来た。

覚えててくれて嬉しい。

仕事頑張ってるみたいで良かった。

でも、返信してはいけないな。

彼女は自分の力で未来を掴んだのだから…』

『今年もメールが来た。

先輩かー。

彼女のことだから張り切って世話を焼いてるんだろうな。

仕事楽しそうで何より』

『仕事が大変みたいだ。

頑張れ︎。

辞めてはいけないよ。

彼女は強いからきっと大丈夫。

応援していますよ。

君なら大丈夫だ』

今年で社会人6年目になります。

今、仕事が楽しいです。

毎日頑張っています。

天国のYさんへ届きますように…。

関連記事

花嫁(フリー写真)

血の繋がらない娘

土曜日、一人娘の結婚式だったんさ。 出会った当時の俺は25歳、嫁は33歳、娘は13歳。 まあ、要するに嫁の連れ子だったんだけど。 娘も大きかったから、多少ギクシャクし…

プリン・ア・ラ・モード(フリー写真)

誕生日会と親友

僕が小学4年生の時、10歳の誕生日会を開くことになった。 土曜日に仲の良い友達みんなに声を掛けた。 「明日来てくれる?」 みんなは、 「うん!絶対行くよ!」 …

ゲームセンター(フリー写真)

嬉しそうな笑顔を

うちのゲーセンに、毎日のように来ていたお前。 最近全然見ないと思ったら、やっと理由が判ったよ。 この前、お前の母ちゃんが便箋を持って挨拶に来たんだよ。 こちらで良くお…

食堂

美味かったな

二十年前のことです。当時、私たち家族は母一人による育てられ、非常に厳しい経済状況にありました。母は私たち三人の子供を育てるため、夜も眠らずに働いていましたが、それでも生活は極貧でした…

繁華街

夢への橋渡し

私はかつて、家の貧しい状況から夜の仕事をしながら大学に通うキャバクラ嬢でした。 私の初めてのお客様は、Yさんという70歳のお爺ちゃん。彼は口下手で、私の話に対して「うん。そうだ…

公衆電話(フリー写真)

十円玉の価値

この話は実話で、私はこの話を読む度に『価値観』や『解釈』は人によって違うことを深く感じます。 ※ その子は、生まれながら知的障害者でした。 幼稚園は近所の子供たちと一緒に通っ…

卵焼き(フリー写真)

とうちゃんの卵焼き

この前、息子の通う保育園で遠足があった。 弁当持参だったのだが、嫁が出産のため入院していたため、俺が作ることになった。 飯を炊くくらいしかしたことがないのに、弁当なんて無理…

ブーケを持つ花嫁(フリー写真)

一人娘が嫁に行った

この前、一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くないと断言出来る一人娘が嫁に行った。 結婚式で、 「お父さん、今までありがとう。大好きです」 と言われた。 …

南国の空

背中を押してくれた人

仕事でどうしようもないミスをしてしまい、次の日に出勤するのがどうしても嫌で、気持ちが塞ぎ込んでいた時のことだった。 家に帰る気にもなれず、仕事帰りに普段は使わない電車に乗って、…

カップル

変わらずそばに

事故に遭い、足が不自由になってしまいました。車椅子がなければ外に出ることも、トイレに行くこともままなりません。多くの友人が去っていきましたが、彼だけは事故前から変わらずにそばにいてく…