遠回りの帰り道と指切り
諏訪の団地で二人の男の子を育てています。弟とは同じ小学校へ行けないと伝えた日、兄は部屋に籠り、三十分後に出てきて、たった一つの約束をさせました。その春から続いた…
諏訪の団地で二人の男の子を育てています。弟とは同じ小学校へ行けないと伝えた日、兄は部屋に籠り、三十分後に出てきて、たった一つの約束をさせました。その春から続いた…
うちの仏壇には、一回り小さい位牌がある。母は毎朝、鈴を二度鳴らしてから扉を閉め、右手で桟をひと撫でした。十七年、その順番は一度も変わらない。なぜ撫でていたのかを…
手を繋ぐとき必ず手首を掴む祖母には、七十年間誰にも言えない夏の記憶がありました。停電の夜の蝋燭の下で初めて語られた、離してしまった妹の手と、届かなかった一杯の水…
夕方になると、坂の上のコロは古いブロック塀の角に座って私を待っていました。十八年のあいだ、雨の日も雪の日も台風の日もです。犬が自分で坂を上るのだと母は言っていま…
親父は川べりから帰るとき、いつも平たい石をひとつだけポケットに入れていた。負けた日にだけそうしていたと知ったのは、逝ったあとだ。物置の缶に詰まっていた水切りの石…
雪深い城下町のお直し屋で、母は朝暗いうちからミシンの前に座り続けていました。十五の誕生日にもらった紺のダッフルコートを、私は恥ずかしいと思いました。裏の裾に入っ…