父を護衛する猫

公開日: ペット | 心温まる話 |

猫(フリー写真)

父が突然亡くなった。

うちの猫のみぃは、父の行く先行く先に付いて行く猫だった。

「こいつはいつも俺の後を付いて来るんだ。俺の護衛なんだ」

と父は生前、少し自慢気に言っていた。

父の亡骸が、病院から自宅に帰って来た。

手を組み、布団に寝ている父。

すると、みぃが私達の前を通り、父の布団の中に入った。

冷たくなった父の横に寄り添って寝ていた。

その光景を見て、物凄く涙が出た。

猫にも解るのかな。

最後のお別れだということが…。

そして父が棺に入った夜。

家族だけの最後の夜。

みぃは棺の上に乗り、一生懸命、父の顔の見える扉をガリガリと開けようとしていた。

砂を掘るように、一生懸命開けようとしていた。

本当に一晩中、みぃは必死だった。

その様子を見て私達は泣いた。

父がお骨になった日。

もう一生、父の顔を見られなくなったあの日。

突然みぃは居なくなった。

みぃは父に付いて行ったのだろう。

「こいつはいつも俺の後を付いて来るんだ。俺の護衛なんだ」

そう言っていた父の言葉を思い出した。

本当にそうだった。

本当は私達も付いて行きたいくらいだった。

その代わり、みぃが付いて行ってくれたんだ。

父の四十九日、ふらっと野良猫が庭に迷い込んで来た。

居なくなったみぃは女の子だったけど、今度は男の子の猫だった。

ずっとうちの前で泣いていた。

その猫をどうしても放って置けなかった。

今もうちに居る。

そういう繋がり。

大切にして行きたい。

みぃも父も、その姿は無くとも、何か別の形で傍に居てくれるのだと信じている。

関連記事

散歩する親子(フリー写真)

家族三人で過ごした思い出

私の母親は、私が12歳の時に亡くなりました。 ただの風邪だったのに、入院してから1週間後にはもういなくなってしまったのです。 そして、父親も私が20歳の誕生日の1ヶ月後に…

白猫(フリー写真)

猫の導き

小学生の頃、親戚の家に遊びに行ったら、痩せてガリガリの子猫が庭にいた。 両親にせがんで家に連れて帰り、その猫を飼う事になった。思い切り可愛がった。 猫は太って元気になり、…

赤信号

寄り添う心

中学時代、幼馴染の親友が目の前で事故死した。あまりに急で、現実を受け容れられなかった俺は少し精神を病んでしまった。体中を血が出ても止めずに掻きむしったり、拒食症になったり、「○○(亡…

金魚すくいをする女の子(フリー写真)

兄妹の金魚すくい

俺が打っている店(金魚すくい)に、兄妹と思われる7歳ぐらいの女の子と、10歳ぐらいの男の子がやって来た。 妹は他の子供たちが金魚すくいをしているのを興味津々で長い間見ていたが、や…

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…

戦時中

靖国での再会

俺の爺さんは戦地で足を撃たれたらしい。 撤退命令が出て皆急いで撤退していたのだが、爺さんは歩けなかった。 隊長に、「自分は歩けない。足手まといになるから置いて行って下さい…

瓦礫

再建の約束

太陽の光がほんのりと残骸の上を照らしていた。災害により変わり果てた風景の中、一つの臨時の避難所が静かな緊張感を持っていた。 「若者の代表として、一つだけ言いたいことがあります……

夫婦の手(フリー写真)

大事なメール

嫁が風呂に入っている時に携帯を見てしまった。 メールボックスには俺が送った『今から帰る』というような、くだらないメールばかり。 でもフォルダがあって、そこにメールが一杯貯ま…

ウェディングドレスの女性(フリー写真)

俺の娘が、俺の嫁になった話

俺には、嫁がいない。 正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。 ただ、俺には10歳の娘がいる。 娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る…

虹

天からの手紙

妊娠と同時に、夫の癌が発覚しました。彼は子供の顔を一目見るまで頑張ると決心していましたが、残念ながら間に合いませんでした。夫が亡くなってからは、私一人で息子を育てています。息子は本当…