プライド
私には自分で決めたルールがある。
自分が悪いと思ったらすぐに『ごめんなさい』と言うこと。
私は元々意地っ張りで、自分が悪いと思っても『ごめんなさい』の一言が出ない。
小さな頃から勝気で、三つ上の兄とも同等にケンカして、必ず兄が折れるまで謝ったことはなかった。
通知表の担任欄にも、
『意思が強いのは良いところ。意地っ張りは悪いところ』
と堂々と書かれていて、母も手を焼いていた。
※
当時、付き合っていた彼氏ともそうだった。
ケンカをしても絶対に折れることがなく、彼がいつも折れてくれることで修復されていた。
クリスマスイブにも、大ゲンカをした。
原因は私。
でも、意地っ張りな私。
悪いと思っても、なかなか『ごめんなさい』が言い出せなかった。
彼氏もほとほと疲れたのだろう。
いつもなら『分かった、分かった』と和ませてくれるのに、その日は違った。
「もういいよ」
と一言だけ言い放ち、バイクで一人、さっさと帰ってしまった。
意地っ張りな私。
その場でごめんなさいが言えなかったから、当然電話を出来る勇気もなく、メールで謝る事も出来ず、あっと言う間に日付けが変わった。
※
ホワイトクリスマスになった夜中になっても彼からの連絡はなく、それに怒ってしまった自分勝手な私。
自宅に女友達を呼び、クリスマスパーティーをして騒いだ。
今でもよく覚えている。
しんしんと降り積もった雪のせいで、深夜でも明るい夜空の中。
私の携帯のバイブレーションの音が、妙に部屋に響いた。
彼のお母さんからの着信だった。
私と別れた帰り道、信号無視して来たトラックに跳ねられ、そのまま命を落とした。
頭の中は真っ白だった。
ほんの何時間前まで一緒に居て、
いつものようにケンカしちゃって、
『ごめんなさい』が言えなくて、
無我夢中で病院に駆け付けて、
何度も何度も叫んだ。
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
『ごめんなさい』
今更言っても遅いのに。彼が戻って来ることもないのに。
私がちゃんと謝っていれば、彼がこんな事にならなくて済んだ。
私が素直になれていれば、まだ彼と一緒に居る時間だった。
『もういいよ』
それが、彼との最後に交わした言葉。
『ごめんなさい』の一言が言えずにいた私のちっぽけなプライドのせいで、彼は亡くなった。
暫くはどんな風に毎日生活していたかは記憶にない。
そんな私に、彼のお母さんが彼が使っていた携帯を見せてくれた。
そこには未送信メール1件。
『むくれてるお前も好きだけど、素直な笑ってるお前が好きだよ』
※
あれから十年が経った。
もちろん一日も彼のことを忘れた日はない。
今でもクリスマスの時期を迎えたり、携帯のバイブレーションの音を聞くと、あの日のことを鮮明に思い出す。
彼が命懸けで教えてくれたこと。
悪いと思ったら、
『ごめんなさい』
と意地を張らず素直になること。
これだけは絶対守る。
私の生きて行くルール。