花火とプロポーズ
2012年の夏。
付き合って2年になる彼女がいた。
彼女とは中学の同級生で、成人してから付き合い始めた。
同窓会で2年振りの再会。
お互いにどんな性格なのか、趣味が何なのかなど知っていたので、付き合うまでにそう時間は掛からなかった。
彼女の家と、俺の家は近かったが、毎日会う訳でもなかった。
連絡も気まぐれにするような感じで、頻繁という訳でもなかった。
だけど俺は彼女のことが大好きで、
『きっとこいつと結婚するんだろうな』
という思いが、心の中にあった。
※
付き合って2年目の夏、
「今年も花火行こう!」「夏祭りに出掛けよう!」
と、彼女との恒例の話が始まった。
結婚も現実味を帯び、
『今年はこのイベントを使ってプロポーズをしよう!』
と決めていた俺だった。
『どんな風に言えば彼女は喜んでくれるだろうか、どう伝えれば彼女の心に響くのだろう』
と悩みに悩み、プロポーズする日ギリギリまで、毎日のように紙に書いてはこうじゃない、こうでもない、と考えていた。
やがてプロポーズの言葉も決まり、後はメッセージ花火に乗せて伝えるだけ。
『彼女は驚くだろうか? 笑うのかな? 泣くのかな?』
なんて想像をしながら、プロポーズの日を待った。
※
プロポーズ前日の朝。
彼女から、
『今日は友達と遊びに行って来るね。明日の浴衣を買いに行って来るわ!どんなんにしよかな~? 楽しみにしてて』
とメールが入っていた。
俺は想像を膨らませ、仕事に出掛けた。
※
仕事が終わり、帰宅しようと携帯の電源を入れた。
すると、一本の電話が鳴った。
彼女の家族からだった。
「○○(俺)君、今から△△病院まで来てくれる?」
『何で病院?』と若干パニックになりながらも、俺は急いで向かった。
※
病院の入り口で彼女の家族が待っていた。
「何があったんですか?」
と聞く俺に、彼女の家族が
「あのね、落ち着いて聞いてね。
今日の朝、出掛けると言って出て行った□□(彼女)が事故に遭って。
打ちどころが悪くて今、意識が無いの。
今夜が山って言われて」
俺は頭の中が真っ白になった。
急いでICUに向かうと、スヤスヤ眠っている彼女。
その姿を見て、
『何だ、オーバーな。寝てるだけじゃないか。今夜が山? 朝になれば目を覚ますやろ』
と、俺は思った。
※
朝になっても目を覚まさない彼女。
峠を越えたと思ったが、プロポーズ当日の夜になっても目を覚まさない。
花火の時間になり、会場近くだった病院の周りは人で埋め尽くされて行った。
病院の窓から見える花火。
本当なら今頃、俺は彼女や友人たちと一緒に、この花火を見ているよな。
彼女は新しい浴衣を着て、俺の横で
「綺麗やね~!」
と満面の笑顔で言っているよな。
なんて、考えながら花火を見ていた。
※
メッセージ花火の時間。
会場からアナウンサーの声が聞こえた。
「○○さんから□□さんへ。
至らない俺やけど、これからの人生、俺の横でずっとその素敵な笑顔を見せてくれへん?」
というプロポーズの言葉と共に、彼女への花火が打ち上がった。
※
花火終了の時刻。
とうとう意識も戻らず、家族や友人に見守られながら、彼女は息を引き取った。
※
あれから2年。
今年も花火の季節がやって来る。
あの時、どんな風に返事をしてくれたのか。
今となってはもう分からない。