みんな同じ

公開日: 心温まる話

電車の車内(フリー写真)

俺の娘は今年、4歳になる。

嫁は娘を生んですぐに家を飛び出したので、子供には母親の記憶は無い。

今まで母親のことはあまり話題にせず避けて来たのだが、この間ちょっと考えさせられる出来事があった。

仕事の移動中に乗った電車の中でのこと。

俺の隣には、幼稚園くらいの女の子が母親らしい若い女性と一緒に乗っていた。

途中の駅で片腕の無い女性が乗って来て、俺達の向かい側に座った。

女の子が、

「お母さん、何であの人は手ないん?」

と、みんなに聞こえる声で言った。

俺は一瞬ドキっとして、女性と親子から思わず目を逸した。

しかし母親らしき女性は慌てることなく、女の子に向かって言った。

母親「いろんな人がいるの。みんなが同じじゃないの。

○○ちゃんにはおじいちゃんとおばあちゃんがいないでしょう?」

女の子「うん、みんなはおるけど、私はおじいちゃんとかおらへんねんなー」

母親「うん、いろんな人がおるけど、おじいちゃんやおばあちゃんがいないのは、○○ちゃんのせいじゃないでしょ?」

女の子「うん、違う。あ、△△ちゃんとこはお父さんおらへんねんで」

母親「そうね、でも、それは△△ちゃんのせいじゃないよね」

女の子「うん、違う!」

母親「だからね、みんなおんなじじゃないの。みんなそれぞれ、持ってるものと、持ってないものがあるんよ。

でもね、持ってないからって、その人は何も悪くないし、他の人と何も違わないんよ」

腕の無い女性を含めて、車内に乗り合わせていた人たちは、みんな温かい目でその親子を見守っていた。

思わず目を逸らしてしまった自分が恥ずかしくなった。

自分の娘にも、母親のことを恥じない子に育って欲しいと思った。

この電車の親子は、俺に子育ての大事なことを教えてくれた気がする。

関連記事

赤ちゃんの足を持つ手(フリー写真)

ママの最後の魔法

サキちゃんのママは重い病気と闘っていたが、死期を悟ってパパを枕元に呼んだ。 その時、サキちゃんはまだ2歳だった。 「あなた、サキのためにビデオを3本残します。 このビ…

手を組む女性(フリー写真)

恋人からの手紙

昨日、恋人が死んじゃったんです。病気で。 そしたらなんか通夜が終わって、病院に置いて来た荷物とか改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛ての手紙が入ってたんです。 で、よく…

夜のビジネス街

強面上司の不器用な優しさ

いつからだろうか、自分でも理由が分からないほど、仕事への意欲を失ってしまっていた。 会社を休み始め、気付けば数日が経っていた。 そんなある日の夜、玄関のチャイムが鳴った。…

桜吹雪(フリー写真)

母さんのふり

結構前、家の固定電話に電話がかかってきた。 『固定電話にかけてくるなんて、誰かなぁ』 と思いながらも、電話に出てみた。 そしたら、 「もしもし? 俺だけど母さん…

食堂

美味かったな

二十年前のことです。当時、私たち家族は母一人による育てられ、非常に厳しい経済状況にありました。母は私たち三人の子供を育てるため、夜も眠らずに働いていましたが、それでも生活は極貧でした…

リビング

弟の物語が変えた家族

私の家族は、父、母、私、そして弟の四人家族です。弟は私より十二歳も年下で、その当時はまだ六歳でした。とても可愛い弟です。しかし、私は遊び盛りで、家にいれば父と母が喧嘩をしていることが…

バイオリン(フリー写真)

世界一の良い娘

昨夜、嫁とケンカした。 切っ掛けは些細なことで、小学2年生の娘がバイオリンを習いたいと言い出したことだ。 嫁「本人がやりたいなんて言い出すのは珍しいから、習わせてあげたい」…

お花畑(フリー写真)

本当のやさしさ

遡ること、今から15年以上前。 当時、小学6年生だった僕のクラスに、A君というクラスメイトがいました。 父親のいないA君の家は暮らしぶりが悪いようで、いつも兄弟のお下がりと…

マラソン

継承されるタスキ

小さな頃、親父と一緒に街中をよく走ったものだ。田舎の我が町は交通量も少なく、自然豊かで、晴れた日の空気は格別だった。 親父は若い頃、箱根駅伝に出場した経験がある。走るのが好きで…

父と子(フリー写真)

父が遺したもの

三年前に親父が亡くなったんだけど、殆ど遺産を整理し終えた後に、親父が大事にしていた金庫が出てきたんだよ。 うちは三人兄弟なんだけど、お袋も亡くなっていて、誰もその金庫の中身を知ら…