パパの1時間を買うために

パパ

ヘタレプログラマーの父は、今日も仕事で疲れ果てて帰ってきた。

深夜の玄関。明かりがまだついていることに気づいて、彼は眉をひそめた。

「まだ起きていたのか。もう遅いぞ、早く寝なさい」

「パパ、寝る前に聞きたいことがあるの」

小さな娘が真剣な顔で見上げてくる。

「なんだ?」

「パパは、1時間でいくらお金をかせぐの?」

突然の質問に、父は思わず顔をしかめた。

「お前には関係ないことだ」

疲労と苛立ちが、声ににじんだ。

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

「どうしても知りたいの。ねえ、パパ。いくらなの?」

娘は小さな声で頼み込むように言った。

「……たいした額じゃない。20ドルくらいだ」

「わぁ……!」

娘の目がぱっと輝いた。

「ねえ、パパ。10ドル貸してくれる?」

「なに?」

父の声が鋭くなった。

「お前が不自由なく暮らせるようにオレは働いてるんだぞ。それなのに金が欲しいなんて……もう寝なさい!」

娘はうつむき、小さく「うん」とだけ言って、自分の部屋に消えた。

夜が静まり返ったあと、男はふと胸の奥が痛くなった。

少し言い過ぎたかもしれない。

思えば、娘は滅多にわがままを言わない子だ。

「なにか、どうしても欲しいものがあったんだろうな……」

そう思った彼は、寝室のドアをそっと開けた。

「もう寝たか?」

「ううん、起きてるよ」

暗がりの中から、泣きはらした声が返ってきた。

「さっきは悪かったな。ほら、10ドルだ」

父はポケットから札を取り出し、娘に手渡した。

「ありがとう、パパ!」

娘は嬉しそうに笑い、枕の下から小銭を取り出した。

「おいおい、もう少し持ってるじゃないか」

「うん。でも足りなかったの。これで足りたよ!」

小さな指で硬貨を数えながら、娘は両手いっぱいのお金を父に差し出した。

「ねえ、パパ。これでパパの1時間を買えるよね?」

父は言葉を失った。

「明日、早く帰ってきてね。ママみたいに、パパと一緒に遊びたいの」

その瞬間、父の胸に何かが崩れ落ちた。

自分が忙しさを理由に、娘の「小さな一時間」をどれほど奪っていたかに気づいたのだ。

翌日。

彼は定時で仕事を切り上げた。

家の前では、娘が笑顔で待っていた。

その手には、昨日渡した10ドル札が握られていた。

「ねえパパ。今日、遊ぼう? もうお金いらないから」

父は笑って、娘をぎゅっと抱きしめた。

「もちろんだ。今日はパパの時間、全部お前のものだ」

その夜、彼は久しぶりに心から穏やかな時間を過ごした。

そして心に誓った。

――もう娘に「時間を買わせる」ような父親には、二度となるまいと。

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