親父の思い出
ある日、おふくろから一本の電話があった。
「お父さんが…死んでたって…」
死んだじゃなくて、死んでた?
親父とおふくろは俺が小さい頃に離婚していて、まともに会話すらした事が無く、思い出も無い。
親父は借金を背負って、自分の事しか考えず家族はそっちのけ。
とにかく自分本位で、おふくろはいつも愚痴ばかり溢していた。
ただそんな親父がまだ小さかった頃の話を聞くと、母親に捨てられ施設で育ったらしい。
愛情を欠いたまま生きて来たから仕方無いのか…と思った時もあった。
※
ちなみに、お祖父さんは帰化申請をした朝鮮人。
小さな頃から、
「朝鮮人はあっち行け」
と馬鹿にされていたらしい。
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自分も親になって少しは親父の気持ちも解り始めた時であった。
最後に会ったのは三年前、子供と一緒に飯を食いに行った時だ。
相変わらず何一つ喋らず、黙々と食べ終わって帰ったっけな。
※
親父は糖尿病で病院に行く金も無く、インスリンを半年も打っていなかった。
部屋にはチョコレートやコーラが大量にあった。
座椅子に座ったまま苦しんだ形跡も無く、十日後に発見。
新年を迎える前日だったらしい。
※
台所には甘口カレーの作りかけの跡があった。
ちゃんと作っておいてやったよ…。
ちゃんと食ってやったよ…。
涙が止まらなかった。
何で言ってくれなかった!
最後の最後まで迷惑掛けやがって!
一緒に酒飲みたかったなー。
温泉行きたかったなー。
親父らしい最後だったのかもしれないな…。