親父の思い出

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 悲しい話 |

親子の手(フリー写真)

ある日、おふくろから一本の電話があった。

「お父さんが…死んでたって…」

死んだじゃなくて、死んでた?

親父とおふくろは俺が小さい頃に離婚していて、まともに会話すらした事が無く、思い出も無い。

親父は借金を背負って、自分の事しか考えず家族はそっちのけ。

とにかく自分本位で、おふくろはいつも愚痴ばかり溢していた。

ただそんな親父がまだ小さかった頃の話を聞くと、母親に捨てられ施設で育ったらしい。

愛情を欠いたまま生きて来たから仕方無いのか…と思った時もあった。

ちなみに、お祖父さんは帰化申請をした朝鮮人。

小さな頃から、

「朝鮮人はあっち行け」

と馬鹿にされていたらしい。

自分も親になって少しは親父の気持ちも解り始めた時であった。

最後に会ったのは三年前、子供と一緒に飯を食いに行った時だ。

相変わらず何一つ喋らず、黙々と食べ終わって帰ったっけな。

親父は糖尿病で病院に行く金も無く、インスリンを半年も打っていなかった。

部屋にはチョコレートやコーラが大量にあった。

座椅子に座ったまま苦しんだ形跡も無く、十日後に発見。

新年を迎える前日だったらしい。

台所には甘口カレーの作りかけの跡があった。

ちゃんと作っておいてやったよ…。

ちゃんと食ってやったよ…。

涙が止まらなかった。

何で言ってくれなかった!

最後の最後まで迷惑掛けやがって!

一緒に酒飲みたかったなー。

温泉行きたかったなー。

親父らしい最後だったのかもしれないな…。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

ジッポ(フリー写真)

ジッポとメンソール

俺は煙草は嫌いだ。でも、俺の部屋には一個のジッポがある。 ハートをあしらったデザインは俺の部屋には合わないけど、俺はこのジッポを捨てる事は無いだろう。 一年前。いわゆる合コ…

瓦礫

震災と姑の愛

結婚当初、姑との関係は上手く噛み合わず、会う度に気疲れしていた。 意地悪されることはなかったが、実母とは違い、姑は喜怒哀楽を直接表現せず、シャキシャキとした仕事ぶりの看護士だっ…

津波で折れ曲がったベランダ

愛に気づくまで

普通とは少し異なる家庭で育った。 幼い頃から、常に我慢を強いられてきたと思っていた。 普通であるべきだと考えていた。 兄は軽度の知的障害を抱え、母はADHDだった。…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

父と子(フリー写真)

父が遺したもの

三年前に親父が亡くなったんだけど、殆ど遺産を整理し終えた後に、親父が大事にしていた金庫が出てきたんだよ。 うちは三人兄弟なんだけど、お袋も亡くなっていて、誰もその金庫の中身を知ら…

巣鴨の歩行者天国(フリー写真)

とげぬき地蔵様

私は小さい頃から中耳炎で、しょっちゅう耳が痛くなっては、治療のために耳鼻科へ行っていました。 小学校に入ると、私が耳鼻科に行くために学校を休んだり早退したりすると、クラスの子に …

雨

雨の中の青年

20年前、私が団地に住んでいた頃のことです。 ある晩、会社から帰宅すると、団地前の公園で一人の男の子が、雨の中傘もささず、向かいの団地をじっと見つめていました。 その様子…

ワイン(フリー写真)

ワイン好きの父

いまいち仲が良くなかった父が、入院する前夜にワインを取り出し、 「まあいつまで入院するか分からないけど、一応、別れの杯だ」 なんて冗談めかして言ったんだ。 こんなのは…

町並み

町の片隅に住む五人家族

それは、お父さん、お母さん、そして小学生の三姉妹から成る仲良しの一家だった。 しかし、時は残酷にもその家族の中心であるお母さんを奪ってしまう。 ある日の帰宅途中、悲しい交…

春の路地(フリー写真)

命よりも大切な友達

お前は俺にとって、命よりも大切な友達だ。 小学校2年の時、友達も居なかった俺の誕生日に、プレゼントとしてチョロQを持って来てくれた。 その時の600円というのは、俺達にとっ…