迷惑かけてごめんな
私のじいちゃんは、私が生まれるまでアルコール中毒だったと聞いた。
酒に酔い潰れ、仕事を休む日も少なくなかったという。
ばあちゃんは何度も離婚を考えたと聞いた。
でも、ばあちゃんは我慢して離婚せず、家を守って来た。
じいちゃんは無口で、あまり自分のことを喋らない性格だ。
だからばあちゃんに対しても冷たそうに見えた。
私が小さい頃も、よく口喧嘩していたのを憶えている。
でも私は、ばあちゃんもじいちゃんも大好きだった。
※
私が小学校の頃にばあちゃんは乳癌になり、闘病生活が始まった。
全摘しなかったため、治ったと思ったらまた再発した。
私が20歳になったばかりの頃、ばあちゃんは医師からもう長くないと言われた。
じいちゃんは毎日、何回もばあちゃんのお見舞いに行っていた。
でも何も話さず、顔を見て帰る感じだった。
それでも毎日毎日、お見舞いは欠かさなかった。
※
数週間後、ばあちゃんは静かに息を引き取った。
ばあちゃんを火葬場に運ぶ時、じいちゃんが泣きながら
「○○(ばあちゃんの名前)を連れてかないでくれ」
と言っていた。
私は思わず涙が出た。
※
葬儀が終わってから、じいちゃんはずっと元気が無かった。
毎日、仏壇の前で何か唱えていた。
こっそり聞いてみたら、
「○○、迷惑かけてごめんな。
俺もいつになるか分からないけど、○○のところに行くから、待っててくれ」
私は涙が止まらなかった。
あんな姿のじいちゃんなんて、見たことが無かった。
※
それからじいちゃんは少し明るくなった。
いっぱい話すようになった。
じいちゃん、ばあちゃんの分まで生きてください。