例外の入籍手続き

公開日: 夫婦 | 心温まる話 | 恋愛

婚約指輪(フリー写真)

彼は肺がんで入院していて、余命宣告されていました。

本人は退院後の仕事の予定も入れ、これからの人生に気力を振り絞っていました。

私と彼は半同棲状態、彼はバツイチ、そして大分年上ということもあり、結婚にはなかなか踏み切れずにいました。

私は彼に病室でプロポーズしました。

彼は、

「もちろん」

と承諾してくれました。

私が喪主として、彼を送ってあげたかった。

私達が夫婦同然と知っていた彼の親戚や、私の親からも反対はありませんでした。

そして病院の隣の区役所へ、入籍書類を出しに行きました。

そこは私の本籍地でしたが、彼の本籍地ではなかったため、彼の戸籍謄本が要ると窓口で説明されました。

郵送でも取り寄せ可能と説明を受けました。通常1~2週間かかるとのこと。

私は受付してくれた担当の女性に、彼は隣の病院に入院していて、その人生にもうあまり時間は無いことを説明しました。

多分、私は泣きそうだったと思います。

担当の女性は、

「暫くお待ちください」

と言って書類を持って席を外し、私は15分ほど待たされました。

そして戻って来た女性が、

「入籍できました。手続きは終えました」

と言い、その証明書類を渡してくれました。

私は驚き、

「どうして?」

と聞くと、彼女は

「役所同志でやり取りしました。例外ですが…」

と話してくれました。

泣きながらお礼を言って、とてもとても嬉しいことを彼女に伝えました。

その入籍から23日後、彼は退院することなく、空へ還って行きました。

結婚できて、彼の姓になることができて、主人と周りに言えて、私は本当に良かったと感じています。

あれから3年…。

今でも毎日主人に会いたいと思っています。

あの日、あの時、入籍できて本当に嬉しかった。

受付の女性の方、本当にありがとうございました。

関連記事

赤ちゃん(フリー写真)

本当に価値がある存在

君がママのお腹に居ると判った時、ママは涙ぐんでいた。 妊娠したと聞いて僕は、 「おーそうか」 なんて冷静に言おうとしたけど、すぐに涙が出たんだ。 決して口には出…

サイン帳

最後の夢を叶えたサイン帳

ある日、ディズニーランドのインフォメーションに、一人の男性が暗い表情でやって来ました。 「あの……落とし物をしてしまって」 キャストが顔を上げて尋ねます。 「どうい…

子供の手(フリー写真)

嫁の手

うちの3才の娘は難聴。殆ど聞こえない。 その事実を知らされた時は嫁と泣いた。何度も泣いた。 難聴と知らされた日から、娘が今までとは違う生き物に見えた。 嫁は自分を責め…

女性(フリー写真)

見守ってる

昨日、恋人が死んだ。 病気で苦しんだ末、死んだ。 通夜が終わり、病院に置いて来た荷物を改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛の手紙が入っていた。 そこには、 …

サイコロ(フリー写真)

あがり

俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。 当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。 いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを書くのに夢中…

夫婦の後ろ姿(フリー写真)

一番大切なもの

ここ数ヶ月、色々な意味で忙しかった。 25歳で自営を始めて10年と少し営んで来た店を畳んだ。 利益が出ず、嫁の収入が主な生活費になっていて、いつ辞めるかのタイミングを見てい…

虹(フリー写真)

人生

1960年に私は生まれて、今まで生きてきた。 いたずらっ子だった小学生時代。 落ちこぼれだった中学生時代。 レスリングに出会い、スポーツが何たるかを学んだ高校時代。 …

コーヒーのドリップ(フリー写真)

店長さんの嘘

俺がまだ受験生だった頃の話。 当時、塾の自習室にはどうにも居辛くて、自習室代わりによく利用している喫茶店があった。 普段は20時前には自習室に戻っていたんだけど、そこの店長…

ウェディングドレスを着た花嫁

大好きな娘へ

先日、俺の一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くない――。 そう自信を持って断言できるほど愛してきた、一人娘だった。 ※ 結婚式で娘は俺の前に立ち、はにかみな…

手を繋ぐ友人同士(フリー写真)

メロンカップの盃

小学6年生の時の事。 親友と一緒に先生の資料整理の手伝いをしていた時、親友が 「あっ」 と小さく叫んだのでそちらを見たら、名簿の私の名前の後ろに『養女』と書いてあった…