第二日曜に母は出かける
母の鞄には、よく晴れた日にも折りたたみ傘が入っていた。第二日曜だけは用事があると言って、私の誘いはいつも断られた。母が入院した週、財布に残っていた交通系ICカー…
母の鞄には、よく晴れた日にも折りたたみ傘が入っていた。第二日曜だけは用事があると言って、私の誘いはいつも断られた。母が入院した週、財布に残っていた交通系ICカー…
夜行バスの中でスマホが光った。『クウの散歩を記録しました 2.4キロ 38分』。もう歩けるはずのない犬の記録が、なぜ今日も届き続けるのか。確かめるためだけに引き…
押し入れから出てきた古い地図には、赤ペンで七つの丸印がついていた。それはすべて、私と関係のある場所だった。母は毎年、私の誕生日に一人でその道を歩いていたという。…
手芸店を営む母が脳梗塞で倒れた春、保育士の私は実家の押し入れで一本の帯布を見つけた。そこには母のボタンが一万一千個以上、毎朝ひとつずつ縫われていた。針が刺さった…
母は毎年九月に一日だけ店を閉め、ヤグルマギクの種を採りに出かけていた。郡上八幡の花屋を継いだ私が、鍵のない引き出しの封筒と種苗店のノートから知ったのは、二十年か…
娘の振袖を選ぶ呉服屋で、ふいによみがえった母のはしゃいだ姿。ほとんど家にいなかった私に、母が一度だけ会社へかけてきた電話の意味を、親の心を知る時がきて、ようやく…
手が震える母がつくる茶色い弁当を、毎日バケツに空けていた高校二年の秋。海老を入れた朝の最後のお弁当に私が返した言葉と、母の手帳に残された二行が、二十年たった今も…
雪深い温泉町で、十九歳の私は独りで娘を育てていました。玄関の履物をいつもそろえてくれた咲。あの子が遺した小さな習慣の本当の意味に私が気づいたのは、何年もあとのこ…