揃っていた上履きの向き
高校一年の秋から、私の上履きの向きはいつも揃っていました。踵を外に向けて、左右が同じ角度で並んでいる。自分で揃えた覚えはありません。同じ高校に通う幼馴染が階段か…
高校一年の秋から、私の上履きの向きはいつも揃っていました。踵を外に向けて、左右が同じ角度で並んでいる。自分で揃えた覚えはありません。同じ高校に通う幼馴染が階段か…
あなたは雪を描くとき、白い絵の具を使わない人でした。夏の病室で「ゆきがみたい」と言われ、僕は真夏の富士山へ登りました。間に合わなかったあの夏と、枕元に置いていっ…
小学三年の夏休み、バス停に毎日立つ中学生の女の子がいました。時計台を見上げ、時刻表の同じ行を人差し指でなぞる。それを何時間も繰り返していたのです。十数年後、同じ…
六歳で旅立った妹の大好物は、街のケーキ屋のいちごのショートケーキだった。病室へ走った十七歳の兄は、あるだけのケーキを抱えて戻る。苺を最後まで残す妹との約束と、お…
妻と授かったばかりの子を居眠り運転のトラックで失った夫が、加害者の婚約者から毎月届く現金書留を新しい口座へ預け続けています。引き出しの奥に重ねた通帳と手紙は、い…
2011年4月、宮城の沿岸で捜索を続けていた私に、赤い長靴の女の子が封筒を差し出した。「じえいたいさんありがとう。うみより」。その手紙は疲れ切った隊員全員の支え…
耳の聞こえない僕は、物心ついたときにはもう手話が使えました。習った覚えはありません。その理由を主治医が明かしたのは、僕が父に手を上げるようになってからでした。仏…
夜のパン屋で働く恋人とケンカをした晩、俺は謝る代わりに、ごめん用の丸パンを笑う一通を送ってしまった。雪の峠で届くまでに五十七分かかった彼女の最後の一行と、冷蔵庫…
事故で左半身に麻痺が残った私は、書店の仕事でも恋人との帰り道でも、いつも半歩うしろを歩いていた。付き合って三か月目の日曜日、彼が真剣な顔で語った並んで歩く理由と…
若年性の認知症になった恋人に、渡せずにいたエメラルドの指輪。一年後、北陸の海辺で再会した二人の二時間と、彼女が呟いた世界一遠くて近い場所という言葉の意味を、静か…
君のための手話を、こっそり覚えた日々。公園の噴水前で待ち合わせをしていた俺は、手話で想いを伝える若い二人を見かける。入門書を開いた夜、鏡の前の不格好な練習、そし…
何もやる気が起きず会社を休み続けた俺の部屋に、ある夜、苦手な強面の上司がチャイムを鳴らした。高架下のショットバーで聞いた言葉と、机の端に置かれていた缶コーヒーの…
点滴の針を怖がって泣いていた五歳の子が、うん分かった約束だよ、と言って自分から腕を出しました。外で遊ぶ約束だと、私はずっと思っていました。看護師がシーツを抱えて…
漢字が読めず、壁のメニューの中でカタカナのオムライスだけを頼んだ十六歳の春。笑い声の中で同級生がかけた一言と、二十年後に見習いの少年へ手渡した昼ごはんの話。オム…
県外の大学へ進む私に猛反対した父は、実は病気を隠していました。父と歩くはずのバージンロードを思いながら、反抗した日々、届いたメールの一文、車道側に立つ父の癖が繋…