
中学時代、俺は目の前で幼馴染の親友を事故で失った。
あまりに突然で、あまりに現実離れしていて、受け止めることができなかった。
その日から俺の心は壊れ、少しずつ狂っていった。
体中を血がにじむまで掻きむしり、止められない自傷行為を繰り返した。
食べ物を口にしても吐き出し、拒食症のようになっていった。
ある夜には「○○(亡くなった幼馴染)が迎えに来た! 一緒に花火をしに行ってくる!」と叫び、窓から飛び降りようとしたこともあった。
記憶は断片的だが、幼馴染が車に撥ね飛ばされる瞬間が何度もフラッシュバックし、そのたびに耳が千切れるほど掻きむしった。
俺は突発的にパニックを起こし、自分を傷つけ続けた。親や兄は、常にそばにいて俺を見張るようにしていた。
※
ある夜、ふと目を覚ました。
気づくと兄が、俺のベッドの下に布団を敷き、眠っていた。
そして、俺と兄の手首は紐でしっかり結ばれていた。
その瞬間、久しぶりに頭がクリアになり、思わず思った。
「ああ、兄ちゃん痩せたな……。俺のせいで心配をかけているんだな」
涙が溢れた。
涙を拭おうと腕を動かすと、その気配に気づいた兄が飛び起きた。
「○○(俺の名前)!!」
兄はすぐに俺にしがみつき、俺が泣いていても暴れていないのを見て、安心したように抱きしめた。
「怖い夢を見たのか? 大丈夫だぞ。兄ちゃんがずっと付いてるからな」
そう言って笑った兄の顔には、無数の引っかき傷があった。俺が無意識のうちにつけたものだった。
それに気づいて、また涙が止まらなくなった。
そんな俺の頭を撫でながら、兄は静かに言った。
「○○君(幼馴染)は可哀想だったな。でもな、俺はお前の兄ちゃんだ。だからお前が一番大事なんだ。お前に何かあったら、俺は悲しいし、寂しい。だから……兄ちゃんを置いて行かないでくれ」
その言葉に、俺は声をあげて泣いた。兄も一緒に泣いてくれた。
※
あの夜から、少しずつ少しずつ、俺の心は変わっていった。
頭がはっきりする時間が増え、食事をしても吐かなくなった。
兄は当時、高校受験を控えた中学3年生だった。
それでも俺のそばにいて、傷だらけになりながら守ってくれた。
俺は一年近く学校を休み、中学1年をやり直すことになったけれど、兄は無事に志望校に合格した。
両親も優しく見守ってくれたが、幼馴染と同じ時間を過ごしてきた兄が、一緒に泣いてくれたことが、俺にとって何よりの救いだった。
幼馴染の死を受け入れることができたのは、兄が隣で悲しみを分かち合ってくれたからだと思う。
あの時の俺には、悲しみに寄り添ってくれる人が必要だったのだ。
そして兄は、その役目を全力で果たしてくれた。