俺とナツ

公開日: ペット | 悲しい話 |

柴犬

「しつこいな!近寄んな!」…今でも後悔してる。お前にあんなことを言ってしまったこと。

俺が小学4年生になった時、親が犬を飼ってくれた。柴犬だ。人懐こいから名前は「ナツ」。

ナツはいつでもどこでも一緒にいてくれた。

俺が中3の時の修学旅行行く時なんてギャンギャン暴れ回って母ちゃん怒ってたわ(笑)。

俺は高校生になっていわゆる不良って奴らと遊ぶようになって、ナツのことなんてすっかり忘れて遊んでた。

ある日の日曜、いつものように不良仲間のところに行こうとしたら、ナツが遊んでほしいのか俺にしつこいぐらいにまとわりついてきた。

でも、そんときの俺はナツのことなんて頭になくて、

「しつこいな!近寄んな!」

つって、家を飛び出した。

…こんときあんなことになるとは、多分神様くらいしかわかってなかったと思う。

仲間と遊んでたその日の夕方、母ちゃんから電話がかかってきた。

俺「もしもし。なんかよう?」

母ちゃん「あのね…ナツが…その…」

俺「ナツがなんだよ!さっさと言えよ!」

戸惑う母ちゃんに俺はイライラしていた。

母ちゃん「…今まで言わなかったんだけどね…ナツはがんになってて、その…今危ない状態なの」

俺「…は?あのアホ犬が死ぬわけないじゃん(笑)。何言ってんの?」

俺は最初、遊んでる俺にふざけてからかってんのかと思ってた。

けど…母ちゃん「お願い!信じて!…帰ってきて!」

必死に言う母ちゃんの言葉が嘘には聞こえなくて、俺は家に向かって全速力で走った。

やっとの思いで家についた時には、もうナツはぐったりしてる状態だった。

俺「ナツ!おい!」

母ちゃん「落ち着いて…」

俺「落ち着けるか!ふざけんな!…おい!ナツ!」

俺はいつしか涙を流しながら必死にナツを抱えていた。

ナツは時折、俺が流した涙を優しく舐めてくれた。

俺は最後まで名前を呼びつづけた。

俺「ナツ!まけんな!まだ死ぬな!」

俺「お願いだから…もうちょっと…まだ…死ぬなよっ…」

泣きすぎて言葉にもならない俺。

俺「ナツ」 何回言ったかわかんないくらい俺のその言葉を最後にナツは息を引き取った。

その後も俺は泣きじゃくった。

…ナツ、これ見てるか?言いたいことがある。

ナツ、そっちの世界で元気か?

ごめんな。近寄んななんて言って。

ごめんな。遊んでやれなくて。

ごめんな。一人にしちまって。

ごめんな。ちゃんとしてない俺で。

ナツ、たくさん嫌な思いをさせちまった。

ナツ、ごめん。

ナツ、一緒にいてくれてありがとな。

ナツ、だいすき。

関連記事

老犬(フリー写真)

苦渋の決断

22歳になるオスの老犬が来ました。 彼は殆ど寝たきりで、飼い主が寝返りを打たせているので、床ずれが幾つも出来ていました。 意識はしっかりしているのですが、ご飯も飼い主が食べ…

戦闘機(フリー写真)

海行かば

このお話は8年程前、九州の西日本新聞に掲載され、映画化もされました。 ご存知の方も多いはずです。特繰出身の学徒兵の方々のお話です。 当時東京に居た私は、銀座の東映に軽い気持…

朝焼け空(フリー写真)

自衛隊最大の任務

「若者の代表として、一つだけ言いたいことがあります…」 焼け野原に立つ避難所の一角で、その青年は拡声器を握り締め話し始めた。 真っ赤に泣き腫らした瞳から流れる涙を拭いながら…

柴犬(フリー写真)

おばあちゃんと柴犬

昔の話だが、近所に旦那さんに先立たれ、独り暮らしをしているお婆ちゃんが居た。 お婆ちゃんは室内で柴犬を飼っていた。 嫁いだ娘さんや孫たちがしょっちゅう様子を見に来ていたから…

カップルの影

残された日記

二年間付き合っていた彼に、突然別れを告げられました。 それは、彼の口から出たとは思えないほど酷い言葉で、心が引き裂かれるような別れでした。 どれだけ「まだ好きだ」と伝えて…

猫(フリー写真)

猫のアン

私が小学生の時、野良猫が家に懐いて子猫を生んだ。メス一匹とオス三匹。 その内、オス二匹は病気や事故で死んだ。 生き残ったメスとオスには、アンとトラという名前を付けた。 …

病室

足りない時間

私は医師として、人の死に接する機会が少なくありません。しかし、ある日の診察が、私の心を特別に痛めつけました。 少し前、一人の若者に余命宣告をすることになりました。 「誠に…

震災の写真

震災を生き抜く少年の記録

「お父さんが軽トラで帰っていった姿を見ました。津波にのみ込まれませんように」と祈っていました。 巨大地震と大津波が東日本を襲ったあの日、子供たちは何を見、その後をどう生きたのか…

戦闘機

戦場の軍医と従兵の絆

先日、私は大伯父の葬儀に参列しました。読経の声が静かに流れる中、私は大伯父がかつて語った、唯一の戦争の話を思い出していました。 医師であった大伯父は軍医として従軍し、フィリピン…

母猫(フリー写真)

母猫の選択

Rの実家は猫好きな一家で、野良猫に餌をあげているうちに、家中猫だらけになってしまったそうだ。 住み着いた猫が仔を作り、その仔もまた仔を作る。 一時は家庭崩壊しかけたほど猫が…