フクは夜だけ出かけていく
夜になると、フクは玄関で一度だけ短く鳴いて出かけていった。前脚の内側を灰色に汚して、朝には帰っている。夜だけ出かける犬の行き先を、私は薄々知っていて、確かめには…
続きを読む:フクは夜だけ出かけていく夜になると、フクは玄関で一度だけ短く鳴いて出かけていった。前脚の内側を灰色に汚して、朝には帰っている。夜だけ出かける犬の行き先を、私は薄々知っていて、確かめには…
続きを読む:フクは夜だけ出かけていく雨の日、片方の肩ベルトが切れたランドセルを抱えた男の子が、父の小さな店に立っていた。ランドセルの修理の代金を、父は一度も受け取らない。ただ甘いだけの人だと思って…
続きを読む:壊れていない側の縫い目返信が途絶えた一時間後に届いた、最後の一言。病室で綴られた日記、渡しそこねた指輪、ごみ箱から見つかった手紙。恋愛の泣ける話を十八本、言えなかった言葉・遺された文…
続きを読む:恋愛の泣ける話18選 切ない別れと約束夜勤明けの水曜の朝だけ、私の冷蔵庫から卵がふたつ減る。三年のあいだ、朝ごはんを作りに来る後輩を私は鬱陶しく思っていた。どうせ憐れまれているのだと。彼女が島へ発つ…
続きを読む:水曜の朝だけ卵がふたつ減る夜行バスの中でスマホが光った。『クウの散歩を記録しました 2.4キロ 38分』。もう歩けるはずのない犬の記録が、なぜ今日も届き続けるのか。確かめるためだけに引き…
続きを読む:散歩の記録が今日も届く泣ける話・長編。半島の集落で俺を育てた隣家のトキさんは、渡船に乗らず峠を歩き、いつも俺を右側に立たせた。十五の夏の約束を果たせないまま別れて三十年、廃止される渡…
続きを読む:峠を歩く人が船に乗った日婚約者の長い療養で結婚式をあきらめた私と、注文の止まったウェディングドレスを十一年間しつけ糸のまま守り続けた仕立て屋の物語。袖口の白い糸に隠されていた約束と、病…
続きを読む:十一年目に外したしつけ糸能登の小さな町では、秋祭りの曳山の笛をふたりの子どもが半分ずつ吹く。九つで戻らなかった息子の座は、二十三年空いたままだった。町が気を遣っているのだと信じていた母…
続きを読む:二十三年目に鳴った篠笛六十三歳で夜間の大学に入った元保線員の私は、講義室の窓の震えの中に線路の継ぎ目の音を聞いていました。十八年会っていない父と息子をもう一度つないだのは、私がかつて…
続きを読む:継ぎ目の音を数えた子夫は毎晩、玄関で靴を外へ向けて並べ直しました。几帳面な小言だと思い、私は十年も腹を立てていたのです。隣の棟が燃えた冬の夜、その手つきの意味をようやく知りました。…
続きを読む:夫は靴を外へ向けて並べた七つで両親に置いていかれた私を、血のつながらない花火師が引き取った泣ける話。五十年ただの一度も名前を呼ばれず、玉名帳にも名簿にも私の名はなかった。その理由は、空…
続きを読む:燃える紙にだけ私の名があった三つだった姪を自分の娘として育てた紙漉きの女の泣ける話。毎年一枚だけ漉いた売らない透かし紙が、三十年後に娘の手から返ってくる。十月十九日にだけ名を呼ばれなかった…
続きを読む:光にかざすと姉の名が出た土曜の三時、最前列の右端にいつも同じ子が座っていた。照明が落ちた数秒だけ、その子は声を出せた。三十年後、閉館の決まったプラネタリウムに現れた整備士が、肘掛けに残…
続きを読む:暗い場所でだけ話す子だった湯屋の富士は、女湯の裾だけが四十三年ずっと白いままだった。絵描きが仕事を放ったのだと、私はずっと思っていた。廃業を決めた最後の夜、大阪から来た兄弟子が差し出した…
続きを読む:兄が塗らせなかった富士の裾十四で継母を迎えた私を、くめさんは一度も名前で呼ばなかった。泣ける話としてお届けする長編の感動短編です。表具屋の土間に五十年、封を切らずに置いた三つの糊甕。五十…
続きを読む:継母は私を名前で呼ばなかったラクリマを応援する
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