ずっと一緒だから

もう、あれから二年が経った。
当時の俺は、医学生だった。
そして、かけがえのない彼女がいた。
世の中に、これ以上の女性はいない。
本気でそう思えるほど、大切な存在だった。
けれど彼女は、まだ若かったにもかかわらず、突然この世を去ってしまった。
原因は静脈血栓塞栓症。
あまりにも突然で、何もかもが信じられなかった。
俺は心の底から崩れ落ち、精神的にも不安定な日々が続いた。
もう、何も手につかなかった。
※
彼女の葬式の日、彼女の母親が、俺にそっと声をかけてきた。
「あの子ね、亡くなる少し前にあなた宛てにこんなことを言ってたのよ」
そして、こう続けた。
『○○君は優しいね。
私が死んだら、きっとすごく落ち込むと思うけど……落ち込んじゃだめだよ。
ずっと一緒なんだから。
私みたいな人を、たくさん救ってね』
彼女はその言葉を残し、まるで眠るように静かに旅立っていったという。
俺は、その瞬間、何も言えず、ただ涙が溢れ出した。
これまでに流したことのないほどの涙だった。
彼女の最後の言葉が、自分に向けられたものだったという事実に、胸が締めつけられた。
死の間際まで、俺のことを想っていてくれたんだ。
その優しさが、深く、痛いほどに心に響いた。
その時、俺は彼女に誓った。
――君の命は、絶対に無駄にはしない。
※
そして今、俺は心臓外科医として働いている。
あんな悲しい別れを、もう二度と経験したくない。
だから、誰かの命を救える力を、この手に持ちたかった。
彼女に誓った想いを胸に、俺はこの道を歩き続けてきた。
ときどき、彼女は俺の夢に現れる。
あの頃と同じ、とびっきりの笑顔を浮かべて。
その笑顔は、俺の努力を見守り、そして祝福してくれる。
「がんばってるね」
そう言ってくれているような気がして、目が覚めた後もしばらく温かい気持ちが続く。
彼女の笑顔がある限り、俺は迷わずに進んでいける。
立派な医師になるために、今日も誰かの命を守るために、俺は手術台に立つ。
だって彼女が、今も俺のそばにいてくれるから。
ずっと、ずっと一緒なんだから。