素敵なお弁当

公開日: ちょっと切ない話 | 友情

運動会(フリー写真)

小学校高学年の時、優等生だった。

勉強もスポーツもできたし、児童会とか何かの代表はいつも役が回って来た。

確かに、良く言えば利発な子供だったと思う。

もう一人のできる男子と二人で、担任には愛され贔屓されていた。

でもそれを良いことに、みんなが私たちに面倒や責任を押しつける雰囲気もできていて、やだなあと思いつつ空気読んでこなす日々だった。

そんなある日、自作のお弁当を作って来て、皆の投票で優勝を決めようみたいな会が開かれた。

『どうせみんな親に手伝ってもらうのにくだらない』

と思いつつ、私は敢えて適当な弁当を考案した。

ハンバーグと冷凍ポテトと何か、みたいな。

制作時間も短めで済む内容。

優勝なんてどうでも良かった。

当日、親が全面的に支援したであろうみんなの弁当はそれぞれに美味しそうで、はっきり言って大差は無い内容だったと思う。

私は、Mちゃんの彩りや栄養がきちんとしていて、弁当にふさわしく手早く作っているお弁当に投票した。

結果は、優勝と準優勝は大差で、私ともう一人の優等生の二人。

本当に大差無かったのに。

結局みんないつもの通り、

『優等生を祭りあげておけばいい』

ということだったのだろう。

Mちゃんの弁当は、大した順位じゃなかった。

でも、私は知っていた。

目立たないけどいつもニコニコして、優しいMちゃんの家は、父子家庭だということを。

彼女の素敵なお弁当は、お姉ちゃんと一緒に日々家事をこなしている、本当に彼女自身が文字通り自作した弁当だということを。

みんなバカだ。

担任もバカだ。

なんで解らないのか。

…と無性に悔しかった。

グループが違うので普段はあまり話さなかったけど、Mちゃんに

「Mちゃんのお弁当に投票したんだよ」

と伝えた。

「ありがとう」

と笑ってくれた。

それから暫く経った運動会の日、離婚したMちゃんのお母さんを見た。

保育園時代にはよく会っていたからすぐ分かった。

お母さんは父兄席からずっと離れた校庭の隅に佇んで、一生懸命娘の姿を探していた。

仕事の合間に駆け付けた様子で、自転車のカゴにお弁当は無かった。

何故か今でもその光景が目に焼き付いて離れない。

関連記事

ウェットフードを食べる猫(フリー写真)

猫エサ缶とコーヒー

俺はコンビニで一人夜勤をしている。 いつも夜中の3時くらいに、猫エサ缶とコーヒーを買って行くおっちゃんがいる。 おっちゃんが、 「うちの猫はこれしか食べないんだよ」 …

夫婦の手(フリー写真)

空席に座る子

旦那の上司の話です。亡くなったお子さんの話だそうです。 主人の上司のA課長は、病気で子供を失いました。 当時5歳。幼稚園で言えば、年中さんですね。 原因は判りません…

グラス

真っ直ぐな友へ

私たちの友情は、中学時代から始まりました。彼は素直で一途、趣味に没頭するタイプでした。中学、高校、大学と一緒の学校に通い、彼は私にとって唯一の親友でした。 大学4年になり、就職…

カップル

ふたりの幸せのかたち

もう五年も前のことになる。当時、俺は無職だった。 そんな自分に、ひとりの彼女ができた。きっかけは、彼女の悩みをたまたま聞いてあげたことだった。 正直なところ、最初は他人事…

老人の手を握る(フリー写真)

祖父の気持ち

まだ幼い頃、祖父を慕っていた私はよく一緒に寝ていました。 私は祖父のことをとても慕っていたし、祖父にとっては初孫ということもあって、よく可愛がってくれていました。 小学校…

万年筆(フリー写真)

わすれられないおくりもの

生まれて初めて、万年筆をくれた人がいました。 私はまだ小学4年生で、使い方も知りませんでした。 万年筆をくれたので、その人のことを『万年筆さん』と呼びます。 万年筆…

月(フリー写真)

月に願いを

俺は今までに三度神頼みをしたことがあった。 一度目は俺が七歳で両親が離婚し、父方の祖父母に預けられていた時。 祖父母はとても厳しく、おまけに 「お前なんて生まれて来な…

父と娘

娘と二人で生きた日々

十数年前、妻が突然この世を去った。 赴任先の地方都市で、知り合いもいない土地。 最期の最期まで、彼女は三歳の娘のことを心配し、俺に「ごめんね」と謝り続けながら、一人で旅立…

ショートケーキ

「おいしい」って笑った日

俺の妹さ、俺が17の時に死んだんだよ。今からもう、8年前のことになる。 まだ6歳だった。 末っ子でさ、家は男兄弟ばっかだったから、兄貴も弟も、そりゃあ猫かわいがりしてたよ…

手を繋ぐ友人同士(フリー写真)

メロンカップの盃

小学6年生の時の事。 親友と一緒に先生の資料整理の手伝いをしていた時、親友が 「あっ」 と小さく叫んだのでそちらを見たら、名簿の私の名前の後ろに『養女』と書いてあった…