手渡しのブーケ
私はウエディングプランナーの仕事をしています。
これまで沢山の幸せのお手伝いをさせていただきましたが、忘れられない結婚式があります。
新婦は私より大分年下の十代で、可愛らしい子。新郎は彼女より20歳ほど年上の、優しい方でした。
年の差カップルは珍しくないけど、これが一筋縄では行かなかったのよね…。
※
新婦はお父様に育てられて、そのお父さんが
「結婚は勝手にしろ。でも式には出ない」
でも二人は当然、
「みんなに祝って欲しい」
と言うのです。
ええ、頑張りましたよ。新婦のご実家に、二人と一緒に何度も行きました。
頭も何回下げたか分かんない。
「お前は関係ない」
と何度も言われました。その通りです。
でも私は二人の結婚式を、二人が望むものに、最高の一日にしたかった。それが私の仕事。
意見や愚痴がどちらも私に集まって来て、正直キツかった。面倒臭いと思ったこともある。
※
でもある日、
「あなた一人と話したい」
と電話が掛かって来たんです。
凄く怖かったよ。何を言われるんだろう、と。
でさ、約束した日に指定された所へ行ったらさ…。
お父さんはいつも、顔も話し方も怖いんだけど、その日は凄く大人しかった。
そして、娘さんが生まれた日の話。
小学校の運動会で張り切ったら「お父さん恥ずかしい」と言われた話。
中学の頃は話し掛けてもろくに答えてくれなかったのに、娘さんが修学旅行から帰って来た日に仕事から帰ると、テーブルにお土産の携帯ストラップが置いてあって、本当に嬉しくて今でも付けてること。
「結婚したい人がいる」と初めて言われた日のこと…。
色々話してくれました。
そして、
「娘が本当に可愛い。娘が選んだ男に間違いは無いと思ってる。でも気持ちの整理が付かない」
と言うのです。泣いたね、あれは。
最後にお父さん、恥ずかしそうに、
「結婚式ってどんな服を着ればいいんだ? もう何年も服を買ってないから分からないんだ」
と聞いてくれました。
夜、娘さんに電話してその日のことを話したら、娘も新郎も号泣。私も号泣(笑)。
数日後、娘さんと私とお父さんとで服を見に行ったよ。
※
そして結婚式は無事に開かれ、大成功!
かと思ったんだけど、ブーケトスで娘さんがブーケを投げない。
『あれ? 何こっち向いてきょろきょろしてるの?』と思っていたら娘さん、すたすたと歩いて来て、私に手渡しでブーケをくれたの。周りの人たちは拍手。
どうやらお二人とお父さんは、結婚式に至るまでのことや、私のことを参列者に話していたみたい。
もう…本当にあれは嬉しかった。涙が止まらなかった。
今でも、あの時の体の震えと、彼女の笑顔が忘れられない。
正直、出過ぎた真似なんじゃないか? とか、自分のやってることは正しいのか? などと考えてしまうこともあったんだけど、沢山の人が
「良い結婚式だった」
と言ってくれたから良いや。もうそれだけで良い。
※
今年、二人から『赤ちゃん生まれました』の年賀状が届いたよ。
赤ちゃんを抱いたデレデレのお父様の写真付きで。