
俺の妹さ、俺が17の時に死んだんだよ。
今からもう、8年前のことになる。
まだ6歳だった。
末っ子でさ、家は男兄弟ばっかだったから、兄貴も弟も、そりゃあ猫かわいがりしてたよ。
元々病弱で、体も小さくて。
それでも、めちゃくちゃ可愛かった。
ちょっとしたことでも、すぐ泣くんだよ。
「兄ちゃん、兄ちゃん」って、いつも俺の後をちょこちょこついてくる。
街のケーキ屋のショートケーキが大好きでさ。
一週間に一回ぐらい、バイト代で買ってやってた。
「おいしいー」って笑って食うその顔が、たまらなく可愛かった。
ほんとに、すっげぇ可愛かったんだ。
※
あの日、妹が発作で倒れたって連絡が来た。
俺、学校からバイク飛ばして、中学校にいた弟を拾って、そのまま病院に行った。
妹は、色んな機械につながれて、ベッドで寝てた。
おかんとばあちゃんが泣きながら、「もうだめだぁ…」って。
「シノを連れてかんといて!お願いや…」って、妹が生まれてすぐ亡くなったじいちゃんに向かって拝んでる。
じいちゃんは、死ぬ間際まで
「シノを抱っこしたいなぁ」って、何度も言ってた。
その願いも叶わずに、じいちゃんは先に逝ったんだ。
※
俺が病室に駆け込んで、「シノ! シノ!!」って呼んだら、妹の意識が戻った。
か細い声でこう言ったんだ。
「にーやん、あんねー、シノ、ショートケーキ食べたいん」
「いっぱい買って来てやるから死ぬな! 寝るな! 起きてんだぞ!」
そう言って、俺はケーキ屋に走った。
ショーケースにあるだけのショートケーキを、全部買ってきた。
※
病室のドアを開けたら、妹が笑ってた。
「買ってきたぞ! シノ、食って元気出せ!」
一口、小さくちぎって食わせたんだ。
「おいしいー……ありがと、にいや」
そう言って、笑って……目を閉じて、
それっきりだった。
※
すぐに、ピーーーーーーーーって音が鳴って。
医者が電気ショックとかやってたけど、
もう、だめだった。
※
あの「おいしいー」の笑顔が、俺の中でずっと残ってる。
あれが、妹が見せた最後の笑顔だった。
俺が買ってきたショートケーキで、
妹は、笑って逝ったんだ。
どうしようもなく、泣いたよ。
でも、ちょっとだけ、救われた気もしたんだ。
シノ、ありがとうな。
にいや、あの日の笑顔、絶対忘れねえからな。