
あの遊園地の、あの席のことを思い出すと、今でも胸の奥がじわりと温かくなる。
同時に、握りしめた拳の中にまだ残っているような、小さな手の感触を探してしまう。
あれからもう何年も経つのに、あの日のことだけは、季節が巡るたびに鮮明に蘇る。
※
俺たちが息子の陽太を授かったのは、結婚して四年目の冬だった。
妻の麻衣は、陣痛の合間にも「ねえ、名前どうする?」と笑っていた。
「陽の当たる場所で、太く生きてほしい」と、俺が言ったら、麻衣は汗だくの顔で「センスないけど、いいね」と笑った。
それが、陽太の名前の由来だ。
陽太は、生まれたときから目がくりくりしていて、看護師さんたちにも「この子はモテるわよ」と言われていた。
俺はその言葉を真に受けて、退院の日に麻衣に「将来が心配だ」と言って呆れられた。
あの頃の俺たちは、本当に、何も知らなかった。
※
陽太が二歳になった夏、異変に気づいたのは麻衣だった。
「最近、陽太の足がよくぶつかるの。段差もないところで転ぶの」
俺は最初、「男の子なんてそんなもんだろ」と軽く流した。
でも麻衣は、母親の直感で何かを感じ取っていたのだと思う。
小児科を受診し、大きな病院に紹介状を書いてもらい、検査をした。
結果を聞いたのは、九月の、やけに空が高い日だった。
医師の口から出た病名を、俺は一度では理解できなかった。
「進行性の神経疾患です。現在の医療では、根本的な治療法がありません」
麻衣の顔から、すべての色が消えた。
俺は何か言わなければと思ったが、喉が詰まって声にならなかった。
帰りの車の中で、チャイルドシートの陽太は窓の外を指差して「ぶーぶー」と笑っていた。
俺はバックミラー越しにその顔を見て、ハンドルを握る手が震えた。
※
それからの日々は、まるで砂時計の砂を一粒ずつ数えるようだった。
陽太の足は少しずつ力を失い、三歳の誕生日を迎える頃には、補装具なしでは歩けなくなっていた。
俺は仕事を減らし、できる限り家にいるようにした。
でも、家にいればいるほど、俺と麻衣の間に言葉が減っていった。
話すことが怖かったのだと思う。
口を開けば、どちらかが泣く。泣けば、陽太が不安そうな顔をする。
だから俺たちは、黙ることを選んだ。
黙っていれば、何も壊れないと思った。
でも、沈黙というのは、静かに、確実に、何かを蝕んでいく。
ある夜、俺が陽太を寝かしつけた後、リビングに戻ると、麻衣がテーブルの上の皿を壁に投げつけていた。
陶器が砕ける音が、静まり返った部屋に響いた。
麻衣は、割れた皿の破片の中に座り込んで、声も出さずに泣いていた。
「なんで」
と、麻衣が言った。
「なんであの子なの。なんでうちの子なの」
俺は何も言えなかった。
答えられるはずがなかった。
破片を拾おうとしたら、麻衣が俺の手を払いのけた。
「あんたは平気なの? あんたは何も感じないの?」
平気なわけがない。
何も感じないわけがない。
でも俺は、崩れてしまったらもう戻れないと思っていた。
どちらか一人が立っていなければ、この家は倒れる。そう信じていた。
だから俺は、歯を食いしばって立っていた。
それが、麻衣には「冷たさ」に見えたのだと、ずっと後になって知った。
※
陽太は、病気のことなど知らないかのように、毎日を生きていた。
補装具をつけた足で、家の中をゆっくりと歩き回り、俺の膝の上に座っては絵本をせがんだ。
好きな絵本は「ぐりとぐら」で、何度読んでも同じページで声を上げて笑った。
「パパ、カステラ食べたい」
そう言うので、休みの日に俺はフライパンでカステラもどきを焼いた。
膨らまなくて、ぺちゃんこの、とても人に見せられないような代物だった。
でも陽太は「おいしい!」と言って、半分以上食べた。
麻衣は台所の隅で、そっと背を向けていた。
肩が小さく震えていたけれど、俺はそのとき声をかけることができなかった。
陽太がもう一つ好きだったのは、テレビで観た遊園地の映像だった。
画面の中でパレードが流れるたびに、陽太は目を輝かせて「いきたい」と言った。
「もう少し大きくなったらな」と俺は答えた。
「もう少し」が、いつ来るのか、本当はわかっていなかった。
でも、言わずにはいられなかった。
「やくそくだよ」と陽太は小指を差し出した。
俺はその細い指に、自分の小指を絡めた。
あの指の温かさを、俺は今でも覚えている。
※
陽太の容態が急変したのは、四歳の秋だった。
入院してからは、俺と麻衣が交代で病室に泊まった。
夜中に陽太が目を覚ますと、「パパ、いる?」と小さな声で聞いた。
「いるよ」と答えると、安心したようにまた目を閉じた。
麻衣と二人きりになると、病室の前の廊下で、壁にもたれて座った。
自販機の明かりだけが、白い廊下をぼんやりと照らしていた。
「ねえ」と麻衣が言った。
「遊園地、連れて行ってあげたかったね」
俺は頷いた。
「約束したんだよ。指切りした」
麻衣は俺の肩に頭を預けた。あの夜、皿を投げた人と同じ人だとは思えないほど、その体は小さく、軽かった。
「ごめんね」と麻衣が言った。
「あなたも、ずっと辛かったのに」
俺は何も言えなくて、ただ、麻衣の肩を引き寄せた。
蛍光灯の微かなジーという音だけが、二人の間を流れていた。
※
十二月の、風が冷たい朝だった。
陽太は眠るように逝った。
前の晩、俺が手を握っていたら、陽太がかすかに握り返してくれた。
それが最後だった。
葬儀の日、麻衣は一度も泣かなかった。
俺も泣かなかった。
涙は、もうとっくに枯れていたのかもしれない。
あるいは、泣いてしまったら、陽太が本当にいなくなってしまう気がして、怖かったのかもしれない。
小さな骨を箸で拾い上げたとき、俺の手は震えなかった。
それが自分でも不思議だった。
家に帰ると、リビングのテーブルに、陽太の「ぐりとぐら」が開いたまま置いてあった。
カステラのページだった。
俺はその本を閉じることができず、そのまま二週間、テーブルの上に置いておいた。
※
陽太が逝ってから、俺たちの生活は音を失った。
テレビをつけない。音楽を流さない。必要以上に口をきかない。
麻衣は仕事を辞め、一日中家にいた。
俺が帰ると、朝と同じ場所に座っている麻衣がいた。
食事は作っていたが、二人分の量がわからないと言って、いつも三人分作った。
余った一皿は、ラップをかけて冷蔵庫にしまわれた。
それが翌朝も残っているのを見て、俺は何度も胸が潰れそうになった。
ある日、帰宅すると、玄関に陽太の靴が揃えて置いてあった。
片付けたはずの、赤い運動靴だった。
麻衣に聞くと、「だって、帰ってくるかもしれないでしょ」と言った。
その目は、どこか遠くを見ていた。
俺は「そうだな」とだけ答えて、靴を元の場所に戻した。
こうして、陽太のいない時間が、重く、長く、積もっていった。
※
転機は、陽太の五歳の誕生日が近づいてきた頃だった。
俺は仕事中に、ふと手が止まった。
カレンダーの日付を見て、あと十日で陽太が五歳になるはずだった日が来ることに気づいた。
その夜、帰宅して、麻衣に言った。
「陽太の誕生日、遊園地に行かないか」
麻衣は、台所の手を止めて振り返った。
「……何言ってるの」
「約束したんだ。陽太と。大きくなったら遊園地に行くって」
麻衣の表情が、困惑から、驚きへ、そして何か別のものへと変わっていくのが見えた。
「でも、もう……」
「わかってる。でも、約束は約束だから」
長い沈黙の後、麻衣は小さく頷いた。
「……うん」
その「うん」は、数ヶ月ぶりに聞いた、麻衣の柔らかい声だった。
※
誕生日の朝、駅のホームに立ったとき、空は薄い雲がかかった灰色だった。
でも、電車が動き出した頃、雲の隙間から光が差し始めた。
麻衣は窓の外を見ながら、小さなリュックを膝の上に置いていた。
陽太のリュックだった。
黄色い、恐竜の刺繍がついた小さなリュック。
中に何が入っているのかは聞かなかった。
遊園地の入口に着いたとき、朝一番の開園前だった。
ゲートの前には、子ども連れの家族が列を作っていた。
ベビーカーを押す母親、肩車をする父親、風船を持ってはしゃぐ子どもたち。
俺はその光景を見て、一瞬、足が止まった。
横で麻衣も立ち止まっていた。
「……大丈夫?」と俺は聞いた。
麻衣は少し目を伏せて、それから顔を上げた。
「大丈夫。陽太が行きたかった場所だもん」
ゲートをくぐると、音楽が流れていた。
明るくて、優しくて、どこか懐かしいメロディー。
陽太がテレビの前で体を揺らしていた、あの曲だった。
俺は、ポケットの中で拳を握った。
※
園内を歩いた。
アトラクションには乗らなかった。
ただ、陽太が見たかったであろう景色の中を、二人で歩いた。
花壇には色とりどりの花が植えられていて、キャラクターの形に刈り込まれた植木があった。
陽太がいたら、あの植木を指差して「パパ、見て!」と言っただろう。
噴水の前では、水しぶきを浴びてきゃっきゃと笑っただろう。
ポップコーンの匂いがすれば、「買って」と袖を引っ張っただろう。
「あったかもしれない未来」が、園内のあちこちに透けて見えるようだった。
麻衣も同じことを感じていたのだろう。
時折立ち止まっては、何かを見つめ、小さく唇を噛んでいた。
※
昼前に、園内のレストランに入った。
窓際の席に案内されて、二人掛けのテーブルについた。
俺がメニューを見ていると、麻衣が店員さんに声をかけた。
「あの、すみません。椅子をもう一つ、お借りできますか」
店員さんは少し首を傾げたが、すぐに笑顔で「もちろんです」と言って、子ども用の椅子を持ってきてくれた。
麻衣は、その椅子を俺の隣に置いた。
そして、黄色い恐竜のリュックを、その椅子の背もたれにかけた。
俺は、その光景を見て、息が詰まった。
「お子様ランチ、ひとつお願いします」
麻衣がメニューを指差して、そう言った。
店員さんは一瞬、空の椅子に目をやって、それからもう何も聞かずに「かしこまりました」と言った。
俺はメニューの文字がぼやけて読めなくなって、適当に何かを指差して注文した。
料理が運ばれてきた。
俺の前にはパスタ、麻衣の前にはサンドイッチ、そして陽太の椅子の前に、旗の刺さったお子様ランチ。
ハンバーグとエビフライとナポリタン。陽太が好きだったものばかりだった。
麻衣は「いただきます」と手を合わせた。
俺も手を合わせた。
三人分の「いただきます」だった。
※
食事をしていると、一人の女性スタッフが俺たちのテーブルに近づいてきた。
胸元にリボンのついた制服を着た、二十代半ばくらいの人だった。
「あの、お客様。本日はお誕生日のお祝いでいらっしゃいますか?」
麻衣が顔を上げた。
「……はい。息子の、五歳の誕生日なんです」
店員さんは、空の椅子にかけられたリュックと、手つかずのお子様ランチを見た。
その目が、少しだけ潤んだように見えた。
「少しだけお待ちいただけますか」
そう言って、彼女は奥に消えていった。
数分後、彼女は小さなケーキを持って戻ってきた。
白いクリームの上に、チョコレートで「おめでとう」と書かれていた。
ろうそくが五本、立てられていた。
「お誕生日おめでとうございます」
彼女は、空の椅子に向かって、そう言った。
俺は、その瞬間、堪えていたものが一気に崩れた。
涙が、止まらなかった。
声を出さないように唇を噛んだが、肩が震えるのを止められなかった。
麻衣は両手で顔を覆って、声を殺して泣いていた。
店員さんは何も言わず、ただそこに立っていてくれた。
しばらくして、麻衣が顔を上げた。
目は真っ赤だったが、微かに笑っていた。
「ふーって、してあげて」
麻衣が俺に言った。
俺は、ろうそくの炎を見つめた。
五つの小さな火が、揺れていた。
一つ一つが、陽太と過ごした年月のようだった。
俺は目を閉じて、心の中で言った。
——誕生日おめでとう、陽太。約束、守れなくてごめんな。でも、今日、来たよ。
そして、ろうそくを吹き消した。
※
食後、園内のホールで小さなショーが始まった。
子どもたちが前方に座り、その後ろに親たちが並ぶ。
俺たちは後方の端の席に座った。陽太の椅子の代わりに、リュックを膝に乗せて。
ショーが始まると、音楽が流れ、キャラクターたちが踊り出した。
子どもたちが歓声を上げた。
そのとき、ふと、不思議な感覚があった。
俺の左側——空けておいた席のあたりに、何かが触れたような気がした。
暖かい、小さな何かが。
首を巡らせても、誰もいない。
でも、確かに感じた。
膝のあたりを、小さな手で叩くような感触。
陽太が興奮したとき、俺の膝をぱたぱた叩く、あの癖。
俺は息を飲んだ。
隣を見ると、麻衣も同じ方向を見つめていた。
目が合った。
麻衣の目には涙が浮かんでいたが、その顔は泣いているのではなかった。
微笑んでいた。
「いるね」と、麻衣が唇だけで言った。
俺は頷いた。
声に出したら消えてしまいそうで、声には出せなかった。
ショーの音楽が最高潮に達したとき、子どもたちの歓声の中に、聞き慣れた笑い声が混じった気がした。
きゃっきゃっ、と弾むような、陽太の笑い声。
空の席の方から。
それは一瞬だった。
でも、確かに聞こえた。
俺は前を向いたまま、左手をそっと伸ばした。
空の席の、肘掛けのあたりに。
何も触れなかった。
でも、指先がほんの少しだけ、温かかった。
※
ショーが終わって、観客が立ち上がり始めた。
俺と麻衣は、しばらくそのまま座っていた。
立ち上がれなかったのではない。
もう少しだけ、この場所にいたかった。
やがて麻衣が口を開いた。
「ねえ」
「うん」
「私たち、間違ってたのかもしれない」
俺は黙って、続きを待った。
「ずっと悲しんでばかりいて。陽太のいない世界が怖くて、毎日泣いて、あなたに当たって。でもさ——」
麻衣は、膝の上のリュックを撫でた。
「陽太は今日、笑ってたよね。楽しそうだったよね」
「……ああ」
「だったら、私たちがずっと泣いてたら、陽太はどう思うかな」
俺は天井を見上げた。
高い天井に、ショーの照明がまだ微かに残っていた。
「……悲しむだろうな」
「うん。きっと悲しむ。あの子は優しい子だったから」
麻衣の声は震えていたが、目は前を向いていた。
「だから、ちゃんと生きなきゃ。陽太が安心できるように」
俺は頷いた。
頷くことしかできなかった。
でも、その「頷き」は、この数ヶ月で一番、確かなものだった。
※
帰りの電車の中で、麻衣はずっとリュックを抱きしめていた。
窓の外は、もう暗くなっていた。
街の灯りが流れていくのを、二人で見ていた。
「ねえ」と麻衣が言った。
「来年も来ようね」
「ああ」
「毎年来よう。陽太が十歳になっても、二十歳になっても」
俺は「ああ」ともう一度言って、それから付け足した。
「そのときは、陽太の分のポップコーンも買おう」
麻衣は少し笑って、「キャラメル味ね。あの子、キャラメルが好きだったから」と言った。
電車が駅に着いて、ドアが開いた。
ホームに降りたとき、冷たい風が頬に当たった。
十二月の風だった。
でも、不思議と寒くはなかった。
麻衣が俺の腕に手を回した。
何ヶ月ぶりだろう、この温もりは。
駅を出ると、街路樹にイルミネーションが灯っていた。
小さな光が無数に瞬いて、夜の道を照らしていた。
「きれいだね」と麻衣が言った。
「ああ」
「陽太も見てるかな」
俺は空を見上げた。
星はほとんど見えなかったが、雲の向こうに、何か温かいものがある気がした。
「見てるよ。きっと」
※
あれから、俺たちは毎年、陽太の誕生日にあの遊園地へ行く。
席を一つ余分に用意して、お子様ランチを頼む。
年々、注文するメニューは変わる。
六歳のときはカレーにした。七歳のときはオムライス。八歳のときは、少し背伸びしてハンバーガーセットにした。
「もう八歳だもんね。お子様ランチは卒業かな」と麻衣が笑った。
俺たちの中で、陽太は確かに成長している。
その成長は、誰にも見えない。
でも、俺たちには見える。
空の椅子に座る、少し大きくなった陽太の姿が。
※
去年の誕生日のことだ。
いつものようにレストランでテーブルについたとき、あの日と同じ女性スタッフが声をかけてくれた。
「お久しぶりです。今年もいらしてくださったんですね」
彼女は、もう何も聞かなかった。
黙って椅子を用意し、黙ってお子様ランチを運び、黙ってケーキを持ってきた。
ろうそくの数は、ちゃんとその年の数だった。
俺は、その心遣いに、ただ頭を下げた。
「ありがとうございます」と言おうとしたが、声が詰まった。
彼女は微笑んで、「また来年も、お待ちしています」と言った。
帰り道、麻衣が言った。
「あの人も、きっと陽太のこと覚えてくれてるんだね。会ったことないのに」
俺は頷いた。
「会ったことはなくても、毎年この席に座ってるからな。陽太は」
麻衣は少し目を細めて笑った。
「そうだね。陽太は毎年ちゃんと来てるもんね」
※
陽太がいなくなって、俺たちは多くのものを失った。
笑い声のある朝。三人分の食卓。小さな靴が並ぶ玄関。
でも、失ったものの代わりに、見えるようになったものもある。
麻衣の強さ。
他人の優しさ。
そして、目には見えないけれど、確かにそこにいる陽太の存在。
陽太は、俺たちを繋ぎとめてくれた。
バラバラになりかけた俺たちを、あの遊園地の空の席から、ずっと見守ってくれていた。
俺はときどき思う。
陽太がいなくなったのは、俺たちを試すためだったのかもしれない、と。
それとも、陽太は最初から知っていたのかもしれない。
自分がいなくなっても、パパとママはきっと大丈夫だって。
だから、あの日、約束の場所で笑ってくれたのかもしれない。
空の席に座って、お子様ランチを前にして、きゃっきゃっと笑って。
「パパ、ママ、もう泣かないで」と。
※
今年も、あの日が近づいている。
陽太は今年で何歳になるだろう。
麻衣に聞いたら、「もう小学校高学年だよ。ランドセル似合ってたかな」と笑った。
きっと似合っていたと思う。
くりくりの目で、ランドセルを背負って、「パパ、行ってきます!」と手を振る陽太が目に浮かぶ。
今年も、席を一つ用意しよう。
今年のメニューは何にしようか。
俺はまだ決めていない。
でも、遊園地に着いたら、きっとわかる。
陽太が、教えてくれるから。
空の席から、いつものように。