
娘を背に、
小さな日の丸の旗を振って、
あなたを見送ってから――
もう、半世紀が過ぎてしまいました。
たくましいあなたの腕に抱かれたのは、
ほんの、ほんのつかの間でした。
※
32歳で英霊となり、
天国へ旅立ってしまったあなた。
今、そちらではどう過ごしていますか。
※
私ももうすぐ、
宇宙船に乗って
あなたのそばへ行けそうです。
あなたは32歳のままの青年。
私は、傘寿を迎える年になりました。
※
おそばへ行ったとき、
「おまえはどこの人だ」なんて言わないでくださいね。
どうか、
「よく来た」と言って、
あの頃のように優しく寄り添って、
私をあなたの隣に座らせてください。
※
お逢いできたなら、
娘夫婦のこと、
孫たちのこと、
そして、
あなたと過ごしたあの若い日々のこと――
たくさん、たくさん話したいのです。
思いきり甘えてみたいのです。
※
あなたはきっと、
「そうか、そうか」と、
いつものように静かにうなずいて、
私を慰め、
「よくがんばったね」と、
褒めてくれるのでしょうね。
※
それから、
どうか、そちらの「きみまち坂」に
私を連れて行ってください。
春にはあでやかな桜の花、
夏にはみずみずしい新緑、
秋には妖艶なもみじ、
冬には清らかな雪模様――
そんな四季のうつろいの中を、
ふたりで手をつないで、
ゆっくり、ゆっくり歩いてみたいのです。
※
私はお別れしてからずっと、
あなたを思いつづけてきました。
あなたへの愛情を支えにして、
ひとり、この人生を歩いてきました。
※
どうか、もう一度――
あなたの腕の中で
静かに眠らせてください。
力いっぱい、
抱きしめてくださいね。
そして、
絶対に――離さないでください。