カテゴリー: 悲しい話

思い切り泣きたいとき、この場所へ来てください。大切な人を失ったこと、届かなかった気持ち、間に合わなかった言葉——悲しい話には、悲しいからこそ伝わる本当のことが詰まっています。号泣できる実話風短編を集めました。

島のピアノと父の電話

ピアノ調律師の私は、父が亡くなった知らせを島へ向かうフェリーで受けた。実家に残された古い携帯の発信履歴と、毎年三月に届いていた島のピアノの調律依頼。請求書の隅に…

港町の雑貨屋に返った小さな鍵

写真家の俺は九年ぶりに港町へ戻り、雑貨屋の窓で別れた君と再会した。棚の奥から出てきた小さな鍵には、亡き父の字で「取りに来る」とだけ記した紙が結ばれていた。来たけ…

毎月来た乗客

月に一度、同じ漁港へ向かう老婦人をタクシーで乗せ続けた。彼女が何も語らないまま来なくなり、半年後に息子が訪ねてきた。胸ポケットにしまわれた一枚の写真が語る、不器…

返ってきたお守り

別れた翌日、郵便受けに届いた返ってきたお守りと短い手紙。港町の郵便局員が、彼女が手を離した本当の理由を半年後の病室で知り、毎月の神社参りに込められた祈りへたどり…

玄関で待っていた

定年になったら一緒にいてやる。そう思い続けた十五年間、猫のチビはずっと玄関で帰りを待っていた。でも、私が戻ったとき、チビはもうそこにいなかった。…

娘が歌ったハム太郎の歌

六歳の娘が突然旅立ち、初七日が過ぎた日曜、父は娘が指折り数えていた二本立ての映画へ一人で入った。ハム太郎の歌が流れたとき、客席の子どもたちが歌う声の中に、あの舌…

嫌いだと言い続けた

俺は母親が嫌いだ。 大嫌いだ。 おせっかいなところが嫌いだ。 何よりも、子どもを一番に考えるところが嫌いだ。 大学に入って一人暮らしを始めて、もう二年も経つのに…

10分後の別れ

その夜は、付き合って三年目の記念日でした。 彼は手料理を用意して、私の帰りを待っていてくれました。 ※ けれど私は、仕事が長引いてしまい、約束の時間に帰れません…

作業着のポケットの底

指輪の内側には、サイズの数字のほかに細かい傷が一列だけついていました。二十歳の春に不妊と告げられた私に、作業着のまま駆けつけた彼が差し出した小さな箱。一年後に本…

来週こその付箋が残っていた

働きすぎで急逝した隣の席の宮坂さんと、「仕事ないですか」と声をかけ続けた私。三回忌の日に奥さんから渡された封筒には、私の名前を書いた来週こその付箋が、一枚だけ入…

手首の紐でつながれた夜

中学二年の夏、目の前で幼馴染を失った俺は眠れず、食べられず、夜ごと玄関に立った。そんな俺と兄を結んでいたのは、体育館シューズの白い手首の紐だった。二十年近く経っ…