帳面は一寸左に寄っていた
十九で紺屋に弟子入りした私は、二十三年連れ添った兄弟子の帳面を盗み見た。九つの甕の図と、川下へ下る朝の便の時刻。黙って戻した帳面は、その日から一寸だけ左に寄って…
十九で紺屋に弟子入りした私は、二十三年連れ添った兄弟子の帳面を盗み見た。九つの甕の図と、川下へ下る朝の便の時刻。黙って戻した帳面は、その日から一寸だけ左に寄って…
納戸の桐箪笥に仕舞われていた十二反の藍布は、夫が夜明け前の藍場で独り染めたものでした。十二の約束の中身を私が知ったのは、四十九日のあとに染め帳の最後の頁を開いた…
四歳の娘が急に字を習いたがった理由は、神様への手紙を書くためでした。徳島の藍を建てる家で、去年の秋に夫を亡くした母が、開けられずにいた藍甕の蓋の裏に見つけた一枚…
藍染職人の継母を、私は最後まで「お母さん」と呼べなかった。青い手が苦手だった私を川から押し上げ、そのまま帰らなかった人。遺された日記のダイヤル錠は、私の誕生日で…