月の側だけ開けてあった雨戸
富山の氷見、網を繕う家の祖母は、月の出る晩だけ雨戸を一枚だけ閉め残した。潮風で網が湿るのに、なぜ。締め忘れだと思っていた孫は、三度の願いごとがどれも叶わないまま…
富山の氷見、網を繕う家の祖母は、月の出る晩だけ雨戸を一枚だけ閉め残した。潮風で網が湿るのに、なぜ。締め忘れだと思っていた孫は、三度の願いごとがどれも叶わないまま…
山形・庄内の羽黒門前町で絵馬の板を仕上げていた祖母は、代金の入っていない小絵馬の裏にだけ墨で点をひとつ打ち、焼かずに残していました。掛け所の四十一枚と、九つの冬…
二年前の秋、二十年ぶりに訪れた祖母の家。ちゃぶ台の上の色褪せた家族写真と、居間の柱に増えていた鉛筆の線。孫の背丈を想像で足し続けた祖母の、静かな毎年の習慣と、最…
寂しいときや困ったときだけ、私は決まって良い香りに包まれました。二十歳の夏、取り壊しの決まった蔵で一番奥の桐の長持を開けると、同じ香りが顔を包んだのです。着物の…
佐賀の有田で染付の絵付けをしていた祖父は、脳梗塞で右手が利かなくなりました。余命を家族だけが知っていたはずのその年の翌日から、祖父は左手で字を書く練習を始めます…
祖母の遺品の缶から、一本の木の枝が出てきました。村に伝わる背負い坂の言い伝えと、施設へ向かう車の窓から痩せた腕を伸ばし続けた祖母。親が最後まで口にしなかったこと…
海沿いの小さな町で、お針子の祖母にひとり育てられた私の物語です。祖母が夜なべして縫ってくれたお手玉、誰にも言えなかったいじめ、そして物忘れの果てに電話越しで交わ…
父の借金、働き詰めの母、古い服しか着ない祖母。大学に落ちた春、俺の部屋に祖母が持ってきたのは、使い込まれた手提げ袋だった。通帳の一頁目に並ぶ日付の意味を知ったと…
秋田の角館で樺細工の見習いをしている俺を、認知症のばあちゃんは毎朝、郵便屋だと思って丁寧に頭を下げます。座布団の下の小さな箱と、幼い日に送った一枚の絵はがき、そ…
福井の越前和紙を漉く家の話です。祖父が倒れた雪の夜、高校二年の僕は祖母をお手洗いへ連れて行き、礼にと三千円を差し出されて断りました。その三千円が、祖母が一年に一…