タグ: 父

手縫いのタスキを渡された朝

箱根駅伝の四区を走った親父は、駅伝ごっこのたびに「四区は、俺の区間や」と言って、お袋が縫った手縫いのタスキを俺の肩にかけた。高校で陸上をやめ、八年口をきかなかっ…

祖父の畳に座っていた幻

会ったことのない祖父が最後に作った六畳が、うちの和室に敷いてある。三千万円の見積もりを間違えた秋、私は夜中にその祖父の畳に座り、幻を見た。幻は「洋二、立ち直りな…

欲しかったオモチャ

長崎・波佐見の窯場の町で、小学四年だった私は店先のブリキの消防車を盗みました。その年の誕生日、父が押入れの奥の紙袋から出したのは、まったく同じ品でした。底に並ん…

うまくいかない日に寄る店

仕事のミスが続いた秋に、独り言のつもりで漏らした一言を、父は居間で聞いていました。三日置いてかかってきた電話と、三十年のあいだ家族を一度も連れてこなかった川口の…

不器用な親父

背中を向けたまま何も言わない父でした。合格の日に病室から掛かってきた一本の電話と、物置のブルーシートの下で五年ものあいだ鳴りつづけていた小さな音の正体。浜松のピ…

手渡しのブーケ

「式には出ん」と言い続けた父は、娘の結婚式で着る服がわからないと言いました。宍道湖のシジミ漁師の家の鴨居に十九年掛かったままの礼服と、切られなかった仕立て札。ブ…

保護されたメールの一行

父の四十九日が過ぎた頃、母が簞笥の奥から古いガラケーを出してきた。受信一覧のいちばん下に、保護されたメールが一通だけ残っていた。九年前の三月十日、送信時刻は朝の…

天国のお父さんへ

海で父を亡くした港町の少年が、生前に約束された釣り竿を求めて、天国のお父さんへ一通の手紙を書きました。その手紙を受け取った配達員たちの、名も告げない静かな優しさ…

ほどこしと親切

昭和五十年代、紡績の町に来た巡業サーカス。切符売場の前で、七人の子を連れた父親が立ち尽くした夜の感動する話です。左官職人の父が見せた、たった一言の優しさ――「ポ…