壊れた乾燥機を直さない父
駅前のコインランドリーで、父は七番の壊れた乾燥機だけを直さなかった。夜ごと百円玉が戻ってくる音の裏には、月末の菓子缶と、色の褪せた貼り紙と、私が長いあいだ見落と…
駅前のコインランドリーで、父は七番の壊れた乾燥機だけを直さなかった。夜ごと百円玉が戻ってくる音の裏には、月末の菓子缶と、色の褪せた貼り紙と、私が長いあいだ見落と…
駅の改札の猫は、降りてくる人の顔を見ない。見るのは足元だけだった。毎週木曜の夜、猫が立ち上がる足音の主を、窓口の小窓から足元しか見えない俺は三か月、知らなかった…
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
二杯目はいらない、と言いながら、私は毎月、父が取ってくる二杯目のメロンソーダを半分も飲まなかった。残りを飲み干す父が恥ずかしくて、会うのをやめた。十四年後、結婚…
父の教習車は、冬でも助手席側の窓が指二本ぶん開いていた。所内でいちばん合格率の低い指導員だった父を、私は腕が悪いのだと思っていた。閉所の決まった教習所で古い配車…