
少し前、近所のスーパーに行ったときのことです。
最近のスーパーって、レジは店員さんが通して、お金を払うところだけセルフになっているところが多いですよね。
その方式の機械が、うちの田舎のスーパーにも導入されたばかりでした。
その日もいつものように買い物をして、セルフの精算機でお金を払っていました。
すると、隣の機械から小銭が床に落ちる音がしました。
何気なくそちらを見ると、そこには足と手に障がいのある様子の方が立っていました。
手足がうまく動かない病気なのか、指先が震えていて、小銭を入れるたびに何度も取り落としてしまっています。
見ているだけで、とても大変そうでした。
「手伝った方がいいかな」
そう思った瞬間、なぜか身体が固まってしまいました。
もし、いきなり声をかけて怒鳴られたらどうしよう。
余計なお世話だと言われたらどうしよう。
そんなことばかり頭に浮かんで、結局、何もできないまま、ぼんやりと突っ立っていました。
するとその人が、ふと顔を上げて、こちらを見ました。
そして、小さな声で、こう言ったのです。
「ごめんねぇ……」
一瞬、何を謝られたのか分かりませんでした。
すぐに、はっとしました。
邪魔をしているのは自分でも、その場を困らせているのは自分でもなく、ただうまく動かない手で一生懸命お金を入れようとしているだけなのに――。
俺は勝手に「怖いかもしれない」と決めつけて、何もしていなかったのに。
ヤンキーみたいな格好をした俺に対して、先に謝ったのはその人の方でした。
そう思ったら、自分が情けなくて、胸の奥がぎゅっと苦しくなりました。
「俺、最低だな……」
心の中でそうつぶやきながら、ようやく身体が動きました。
慌てて床に落ちた小銭を拾い、ひとつひとつ、その人の手の届くところまで差し出しました。
「大丈夫ですか。入れるの、手伝いますね」
震える手で受け取ったその人は、ほっとしたように微笑みました。
「ありがとうね……本当に、助かったよ」
そう言って、その人は震える指先でポケットを探り、小さな飴玉をひとつ取り出しました。
「これ、よかったらもらってくれる?」
差し出された飴玉は、スーパーでよく売っている、ごく普通の包みでした。
でも、その人の手と声は、小さく震えながらも、まっすぐな感謝の気持ちでいっぱいでした。
「ありがとうございます」
そう言って受け取った飴玉が、妙に重く感じられました。
たった数十円の小銭を拾っただけなのに。
本当はもっと早く、もっと自然に手を差し伸べるべきだったのに。
それでもその人は、最後まで「ごめんね」「ありがとう」と繰り返してくれました。
スーパーを出てからも、手の中の飴玉を何度も見つめました。
包み紙を開けるのが、なかなかできませんでした。
「また会いたいな」
そう心の中でつぶやきながら、あの日のセルフレジの前で交わした、短い会話と温かい飴玉の感触を、今でも大事に覚えています。