桶の豆腐は売り物ではなかった
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
二杯目はいらない、と言いながら、私は毎月、父が取ってくる二杯目のメロンソーダを半分も飲まなかった。残りを飲み干す父が恥ずかしくて、会うのをやめた。十四年後、結婚…
父の教習車は、冬でも助手席側の窓が指二本ぶん開いていた。所内でいちばん合格率の低い指導員だった父を、私は腕が悪いのだと思っていた。閉所の決まった教習所で古い配車…