桶の豆腐は売り物ではなかった
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
店先の桶の豆腐は、毎朝一丁だけ、値札もなく沈んでいた。閉店した実家の片づけの日、向かいの八百屋の吉村さんが、その一丁の始まりを語り出した。6歳の朝に泣いた私は、…
兵隊になれなかった夫は、戦時中の豆腐屋を私と二人で営みながら、町の人に蔑まれても、夜ごと腹を空かせた子らに、欠けた椀で一杯の豆腐をよそい続けた。それから数十年、…