鏡のない部屋とカレンダーの凹み
訪問理容師のわたしが十年通った丘の団地の一室。桐生さんの注文はいつも耳の上二分だけで、部屋には鏡がなかった。切り終えるたび指でカレンダーを押す仕草の意味を、わた…
訪問理容師のわたしが十年通った丘の団地の一室。桐生さんの注文はいつも耳の上二分だけで、部屋には鏡がなかった。切り終えるたび指でカレンダーを押す仕草の意味を、わた…
毎朝四時に台所へ置かれる母の弁当箱。東京の外れの古い団地で母とふたり暮らしをする配達員が、風邪で弁当箱が消えた朝に二十四年分の重さへ気づき、焦げた玉子焼きと湯呑…
二十年前の雨の夜、団地の公園で八時間立ち続けた少年がいました。靴の先は、ほかより一枚だけ低い敷石にきっちり収まっていたのです。二十年後に同じ場所へ行くと、その一…
タクシー運転手の息子が母の団地で見つけた千を超える折り鶴。翼の裏に書かれた一行の日記が、忙しさを言い訳に疎遠にしていた日々を静かに照らす。母の愛に涙する感動の物…
親父が借金を残して姿を消した秋、俺は別居していた母と団地で暮らし始めた。限界で彼女に当たった夜、彼女の愛は怒りで返さず、財布に残る十枚の百円玉と、十五の春の秘密…