カテゴリー: 悲しい話

思い切り泣きたいとき、この場所へ来てください。大切な人を失ったこと、届かなかった気持ち、間に合わなかった言葉——悲しい話には、悲しいからこそ伝わる本当のことが詰まっています。号泣できる実話風短編を集めました。

理容椅子はまだ半回転する

団地の商店棟で37年、鋏だけを握ってきた。妻は3年前から丘の施設にいて、俺を先生と呼ぶ。理容椅子は客が座る前に半回転させる。それがうちの店のやり方だった。壊れた…

はね出しの花が毎月消える

店の奥、水道の脇の白いバケツには、売り物にならないはね出しの花が挿してある。毎月14日、そこから一輪だけが消える。電話をかけてくるのは毎回ちがう人で、みんな22…

散歩の記録が今日も届く

夜行バスの中でスマホが光った。『クウの散歩を記録しました 2.4キロ 38分』。もう歩けるはずのない犬の記録が、なぜ今日も届き続けるのか。確かめるためだけに引き…

妹が遺した湯呑みと姪の涙

山あいの窯場で妹を静かに見送った陶芸家の私。強くあろうと涙をこらえ続ける私に、四歳の姪がかけたひと言が、凍りついた心を静かにほどいていく。妹を残した若い医者への…

撮らせてくれない一枚の写真

「撮らないでください」と笑った仕立ての女、雪江さん。写真師の俺が一度も撮れなかった彼女は、白い窓の台紙に、いつの間にか一枚の写真を残していた。病と嘘と梅の鉢が、…