うちは貧乏な母子家庭で、俺が生まれた時はカメラなんて無かった。
だから写真の代わりに、母さんが色鉛筆で俺の絵を描いてアルバムにしていた。
絵は決して上手ではない。
ただ、どうにかして形に残したかったらしい。
ほぼ毎日、赤ん坊の俺を一生懸命描いていた。
絵の隣に、
『キゲンが悪いのかな??』
『すやすや眠ってます』
というコメントまで書いてあった。
※
小学四年生の時、家に遊びに来た友達数人にそのアルバムを発見された。
めちゃくちゃ笑われて、貧乏を馬鹿にされた。
友達が帰ってすぐ、俺は三冊のアルバムをバラバラに破いてゴミ箱に捨てた。
パートから帰って来た母さんがそれを見つけて、泣き出した。
破いた理由を言っても、変わらず泣き続けた。
※
翌朝起きると、居間で母さんがゴミ箱から絵の破片を集めてセロハンテープで留めていた。
「恥ずかしい思いさせてごめんね。でもね、これ、母さんの宝物なんよ」
申し訳なさそうに優しくそう言われると涙が溢れ、俺は
「ごめんなさい」
と謝った。