大戦中にドイツ軍の捕虜収容所に居たフランス兵たちのグループが、長引く捕虜生活の苛立ちから来る仲間内の喧嘩や悲嘆を紛らわすために、皆で脳内共同ガールフレンドなるものを作った話を思い出した。
そのグループが収容されていた雑居房のバラック。その隅に置かれた一つの席は、13歳の可愛らしい少女がいつも座っている指定席だった(という、皆のイメージ)。
彼らグループの中で、喧嘩や口論など紳士らしからぬ振る舞いに及んだ者は誰であろうと、その席に居る少女に頭を下げ、皆に聞こえる声で非礼を詫びなければならない。
着替えの時は、見苦しい姿を彼女に見せぬように、その席の前に目隠しの布を吊った。
食事の時は、皆の分を分け合って彼女の為に一膳をこしらえ、予め決められた彼女の『誕生日』やクリスマスには、各自がささやかな手作りのプレゼントを用意し、歌でお祝いをする。
最初は慰みのゲームのようなものだったのが、皆があまり熱心になると、監視のドイツ軍までもが、彼らが本当に少女を一人匿っているものと勘違いして、彼らの雑居房を天井裏まで家捜しするという珍事まで起こった。
だが厳しい捕虜生活の中で、他の捕虜たちが衰弱して病死したり発狂や自殺したりする中、そのグループは全員が正気を保って生き延び、戦後に揃って故国の土を踏んだという。