
中学3年生の頃、母が亡くなった。
今でも、あれは俺が殺したも同然だと思っている。
※
あの日、俺は楽しみに取っておいたアイスクリームを探していた。
学校から帰宅し、すぐに冷凍庫を開けてみた。
しかし、そこにあるはずのアイスがなかった。
焦って母に問い詰めると、母は申し訳なさそうに言った。
「弟が欲しがったから、あげちゃったの」
その瞬間、俺は感情を抑えられなかった。
「なんで勝手に!俺のだったのに!!」
母に向かって怒鳴り散らし、挙げ句の果てにこう叫んでしまった。
「死ね!」
夕飯も食べず、俺はそのまま自分の部屋に籠もった。
※
どれほどの時間が経っただろうか。
気づけば寝ていた俺の部屋に、父が勢いよく飛び込んできた。
「母さんが…轢かれた!!」
あの時の父の顔。蒼白で、何かが壊れそうなほどに怯えていた。
あの声と表情は、今でも夢に出てくるほど忘れられない。
慌てて病院へ向かった。
医師の言葉は、冷たく、容赦なかった。
「もう手の施しようがありません…最後に、傍にいてあげてください」
俺は信じたくなかった。さっきまで怒鳴りつけていた母が、もう…
※
その後、父から母の事故の詳細を聞かされた。
「母さん、『ちょっと買い物に行く』って出かけて、その帰りに車に轢かれたんだ」
現場には、ビニール袋が落ちていたという。
その中には、アイスクリームがひとつだけ入っていた。
俺が怒鳴って責めた、あのアイスだ。
そして、救急車の中で母はずっとこう呟いていたという。
「ごめんね…ごめんね…」
それを聞いた瞬間、俺の胸は締め付けられた。
あの時、母は、俺のためにアイスを買いに行ってくれたんだ。
叱られたことを気にして、何も言わず、ひとりで。
それで…事故に遭った。
※
通夜でも、葬式でも、俺はずっと泣き続けた。
どうして、あの時「ありがとう」と言えなかったのか。
どうして、たかがアイスくらいで、あんなに怒ったのか。
なぜ、あんな酷い言葉を…
※
母さん、ごめん。
あの時、「死ね」なんて言わなかったら——
今でも、その後悔が消えることはない。
春が近づくと、あの日の光景がふとよみがえる。
冷凍庫の扉、母の優しい顔、ビニール袋の中のアイス。
何もかもが鮮明に思い出され、自然と涙が溢れてくる。
母さん、本当に…ごめんなさい。