私が生まれる前から、私の家にはミーコという猫が居た。
白くて、ふわふわで、温かかった。
私はミーコが大好きだった。
ミーコもそんな私に懐いてくれた。
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父が入院し、母まで体調が悪くなった時も。
中学入試をさせたがった母が何一つ出来ない私に怒り、私が家の外に追い出され一人で泣いていた時も。
両親が働きに出て寂しい時も。
ミーコはいつもそっと傍に居てくれた。
ただ隣に座っていてくれるだけで力をもらえた。
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私は無事、母の言っていた私立中学に合格した。
しかし、中学2年生の冬休みに母は言った。
「中学校を辞めて、公立の方に行きなさい」
そんなの嫌だった。
だけど、母は私にもっと上の高校に行って欲しいと言った。
立派な人間になって欲しいと言った。
気持ちは嬉しかった。
私の将来を考えてくれていた。
私にはこの母の説得を拒否出来る言葉が思い付かなかった。
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毎晩泣いていた。
新しい学校で虐めも受けた。
近所の大人たちは陰口を言い、私と話してくれなかった。
母を恨んでしまう自分が情けなかった。
先が見えなくて不安だった。
そんな頼りない私が心配だったのか、ミーコは20歳になった。
人間で言うと120歳だと聞いた。
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中学3年生になり、ある模試で学年一位になった。
母も褒めてくれた。
私は満面の笑みでミーコに報告した。
ミーコの声が少し高く、明るく感じた。
私が一位になったことが広まると、虐めは段々少なくなって行った。
ミーコは段々弱って行った。
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そしてある日、学校から帰ると小屋の中で死んでいた。
冷たかった…。
初めは全然涙が出てこなかった。
ミーコが居なくなるという実感が湧かなかった。
ミーコの墓を作っている間、私は何も話さなかった。
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家に帰り落ち着くと、急に実感が湧いて来た。
涙が溢れ出した。
私はまたミーコの墓まで走って行き、言った。
「ミーコ、今までありがとう」
そして涙でぐちゃぐちゃな顔で笑った。
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私はもう大丈夫だよ。
しっかり笑って生きて行くよ。
だから…安心してね。
天国で会えたら、ミーコと話がしたいな…。
今度は私がミーコの話を聞いてあげる。
私も楽しい話が出来るように今から頑張るね。
ミーコ、本当に大好きだよ。