小学3年生の時、親父が仕事帰りに雑種の小犬を拾って来た。
黒くて目がまん丸で、コロコロとした可愛い奴。
でも野良なので、小汚くて毛がボロボロに抜けていた。
そんな風貌を見て、親父はその犬を『ボロ』と名付けた。
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一人っ子の俺は、良い弟分が出来たのが嬉しくて、毎日公園へ散歩に行っては一緒に遊んだ。
うちは両親共働きで殆ど家には居らず、いつも独りぼっちだったけど、ボロが現われてからは毎日楽しかった。
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ちょうど1年が経った頃、うちは親父の仕事の都合で遠くに引っ越さなくてはならなくなった。
当然ボロも一緒に行けるものと思っていたが、引っ越し先には連れて行けない事を母親から告げられた。
両親はどこかに引き取ってもらおうと、貰い手を探していたようだが、結局どこにも引き取ってもらえなかった。
それで仕方なく車で遠くへ連れて行き、捨てるという事になった。
俺は当然、泣き喚いて断固反対した。
ボロと別れるなんて考えられない。
ましてどこか遠くに捨てるなんて絶対に嫌だ。
しかし当時小学生だった俺はあまりに無力で、結局事態を好転させる事など出来るはずもなく、捨てる事に決まってしまった。
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母と俺、そしてボロで車に同乗し、隣街まで出掛けた。
車中でも悲しくて悲しくて涙が止まらず、俺はずっとボロを抱き締めていた。
母がちょうど良さげな場所を見つけたらしく、車を停めた。
とうとうその時が来たのだ。
車から降ろそうと母がボロを抱きかかえると、何かに勘付いたのか、ボロはグッと足を踏ん張って車から降りまいと抵抗した。
それを見た俺はますます悲しくなり、声を上げて泣いた。
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ボロを降ろしてドアを閉め、急いで車を走らせるも、ボロは思い切り走って追い掛けて来る。
その姿があまりに悲しく、母は車を停めた。
肩を震わせて、母も泣いていた。
俺は車から飛び出し、ボロに抱きついた。
ボロの匂い、ボロの声、ボロとの思い出が走馬灯のように蘇る。
お手もお座りも何も覚えない、本当にバカ犬だったけど、独りぼっちの俺の傍にいつも一緒に居てくれた、大切な友達。
「何だって言う事を聞くから、ボロも一緒に連れてって!」
泣きながら母に嘆願したが、やはり駄目だった。
「やっぱり連れて行けない」
母はそう一言呟いて、もう一度車を走らせる事になった。
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今度はボロも察したらしく、追い掛けても来ず、座ったまま走り出す車を眺めているだけ。
「ボロさよなら!ボロ元気でね!」
車の中から手を振った。
止まらない涙。
「ごめんね…」
謝る母。
ボロの姿がどんどん小さくなって行く。
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あの時の光景を思い出すと、今でも辛くて悲しくて泣けてくる。
そして人間の身勝手で、動物を飼ったり捨てたりした事を、心から反省している。