ある日、教室へ行くと座席表が書いてあった。
私の席は廊下側の前から二番目。彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまった。
でも同じクラスで本当に良かった。
※
クラスに馴染んで来た頃、私と彼は一緒に帰った。
彼とは一言も話した事が無い。もちろん帰りも全然話さなかった。
その日、メールで
「話せなくてゴメン」
と送られてきたから、私は
「ううん、私もだから」
と返した。
私と彼は帰れる日は一緒に帰った。少し話せるようになった。
でも私と彼は学校では話さなかった。
※
それから彼が学校に来る日が少なくなって行った。
誰に聞いても理由は判らなかった。
でも毎日メールをした。
学校に来ない理由を聞いても、
「風邪」
としか言わなかった。
※
ある日、彼の友達が私に言った。
「あいつ、ガンで入院してるよ」
私は泣いた。声を上げて泣いた。
悲しかったからじゃない。私に本当の事を言ってくれなかったから。
お見舞いに行こうと思った。でも彼は私に会いたくないと言った。
ガンの抗がん剤の副作用で髪の毛が抜け、私に見られたくないらしい。
※
それでも私は毎日メールをした。
時々返って来なかった。
返って来ても、
「死にたい」「辛い」
などしか言わなかった。
私はこの時、彼に何もしてあげられなかった。
ただ毎日学校で起きた一日を彼に送り続けた。
そして、良くなる事を願った。
※
文化祭の日。
私は一人楽しめずに、ボーっとしていた。
誰かが私を呼ぶ声がした。
後ろを振り返ると、車椅子に乗った彼がいた。
私は彼のところへ走った。
泣きそうになったが、彼が
「お前が泣くと俺も泣きそうになるから泣くな!」
と言ってくれた。
学校で話した事の無い彼が、みんなの前で私に話しかけてくれた。
初めての事だった。
※
だけどその文化祭の日が、彼に会った最後の日になった。
私は文化祭の日から彼とメールができなくなっていた。
一週間経っても…二週間経っても…。
ある日、先生が言った。
「○○君は、文化祭の4日後に亡くなりました」
初めて知った。
ちょっと具合が悪くなったとは聞いていた。
周りの友達はみんな泣いていた。
私は涙が出なかった。
訳が解らなかった。
※
家に帰ると、一通の手紙が届いていた。消印は文化祭の次の日。
母を問い詰めると、
「今日届いたのよ」
と言った。
私は手紙を握り締めて、自分の部屋へ走った。
ベットの上に座り、手紙を読んだ。
※
『マミへ
この手紙は、文化祭が終わってから3週間後に届けられるようにしてあるんだ。
これを読んでいる時は、俺はもうマミの側にはいないかな。
マミには沢山謝んなきゃいけない事がある。
学校で喋れなかったし、一緒に帰っている時も話せなかった。
恥ずかしかったんだ。言い訳だけど…。
文化祭の日、マミに会えて嬉しかった。何だか可愛くなった?(笑)
マミは俺に会わなかった方が良かっただろう。俺、変わってたべ?
今、俺は凄く怖い。いつ死ぬか判らない。
でもこれだけは言って置く。
マミ、好きだよ。
俺を忘れて、良い恋をしてください』
※
涙が溢れて来た。そして止まらなくなった。
封筒にはもう一枚、手紙が入っていた。
そこには、
『泣くな』
と書いてあった。
それから数日、私は泣いて過ごした。
彼の事が忘れられなかった。
※
中学3年生になった今、私は教室に入ると笑顔で
「おはよう」
と言う彼がいるのを期待して学校へ通っている。
文化祭の日は必ず彼の姿を探す。
後ろを振り返ると、彼がぎこちなく笑って顔を赤らめ、
「マミ」
と呼んでくれている気がする。
今は彼が行きたがっていた高校を受験しようと思っています。