20年前、私は団地に住んでいました。
夜の20時くらいに会社から帰ると、団地前の公園で雨の中、一人の男の子が傘もささず向かいの団地を見ながら立っていました。
はっきり言って気持ち悪い光景でした。
3月始めで、まだ寒い時期のことです。
家に帰り1時間ほどして、外を見るとまだ立っていました。
警察を呼んだ方が良いか迷いましたが、暴れている訳ではないので放っておきました。
そしてその夜は疲れていたので床に就きました。
※
朝起きて窓を見てみると、微動だにしていない男がまだ立っていました。
昨日の夜から雨は止んでいません。
私が見てから十時間。
明るくなったせいか、男の子の姿がはっきり分かりました。
14~16歳の青年でした。
俯き、ふらついていて限界の様子。
私は我慢ができずに、近くに寄り傘を彼に渡しました。
「大丈夫? どうしたの?」
と訪ねたのですが、
「ありがとうございます」
とだけ言うと、それ以外は答えてくれませんでした。
何があったのか聞きたかったのですが、これ以上聞かないでくれと言わんばかりの様子。
私は家に戻りました。
※
それから彼は、6時間も立ち続けました。
気になり出したら調べないと気が済まないタイプの私。
向かいの団地に知り合いがいましたので、調べてみようと電話をしました。
すると、
「娘の彼氏だ!」
とのこと。
こんなことがあるんですね。
話を聞いて、私は涙が溢れました。
私の団地友達の娘さんは、急性白血という癌で一ヶ月前に16歳という若さで亡くなっています。
その団地友達に話を聞くと、一度その青年と会ったらしいのですが、少し不良ぶっている彼氏が気に食わず、娘と一切合わせないようにしていたようです。
彼女の死、会えない苦しみ、お線香すら上げられず、彼は雨の中いたんでしょうね。
何とも切ない話だと思います。
今は36歳くらいになっているのかな?
素敵なお嫁さんがいるのかな?
あの時、自分が彼女の家に行けば迷惑がかかる。
だから我慢してずっと見守っていたんだよね。
16歳なのに。
今でもあの真っ直ぐな青年の姿が脳裏に焼き付いています。
君は格好良かったよ!