泣ける話や感動の実話、号泣するストーリーまとめ – ラクリマ

初めて好きになった人

ベゴニア(フリー写真)

俺が小学6年生の頃の話。

俺は当時、親の転勤で都会から田舎へと引っ越しをした。時期はちょうど夏休み。全く知らない土地で暮らすのはこれで五回目だった。

引っ越しが終わり、夏休みが終わり、9月に新しい学校に入学した。今までで一番小さい学校だった。そこで俺は初めて恋をした。

その人は凄いおっちょこちょいで、机から物をよく落とす人。

たまたま俺が席が隣だったから拾ってあげたら、

「ありがとう」

と笑顔で。それが切っ掛けだったのかもしれない。

それから席替えがある時はずっと隣の席。いつも楽しく話をした。

勉強も面白かった。スポーツも、初めてバスケットボールをやって朝早くから夜遅くまで友達と遊びまくった。

月日が経ち、12月、1月、2月…。中学校に上がるための説明会が行われた日。

そして中学校で使う教科書がみんなに配られる時。俺には教科書は配られなかった。

みんなには、

「何で貰ってないの? どうして?」

と問いただされる。その時、初めて俺は答えた。

「俺、転校するんだ」

その数日前、家族で揉め事が起こった。

俺の親父は重度のうつ病で、自殺までやろうとしたらしい。

おまけに極度のマザコン。父方の母と父と同居しているのだが、俺の母はそれに耐え切れなかった。

別々に住むという話が出た時に、俺は初めて親に反抗した。

「何でまた引っ越すんだよ!ふざけんなよ!勝手なことばっかりしやがって!」

どうしてそんなに反抗したのか。

もちろん初めて好きになった人と一緒に中学校に行くため。

その時、これが初恋なのだと気が付いた。

先生に転校のことを話した時には、みんなには黙っていて欲しいと頼んだのだが、やはりばれた。

もちろん好きな人にも知られた。妙にギクシャクして話し難くなった。

卒業式。その時の俺は、あまり覚えていない。今まで転校して来た時のように、無駄に感情移入しないため。

みんなのことを考えると、自分が崩れて行くような感覚がするため。

だから、もう全て無かったかのように、一人で家に帰った。

また引っ越し。新しい土地に引っ越して数日が経った。

すると春休み中に卒業旅行みたいなのをやるので参加しないか、と先生から電話があった。

何となく「はい」と答えてしまった。

それは何故か。あの人に会いたいから。

卒業旅行と言うよりは、みんなで一緒に遊びに行こうという企画。

市内でボーリングしてご飯を食べて、という内容。

もちろんあの人も居た。

目線だけ合うけど、話し掛けられなかった。もどかしかった。何を話して良いか分からなかった。

田舎の駅で解散する時に、俺は『君のことが好きだった』と告白しようと考えていた。

そして、話し掛けようとした時、彼女は泣いていた。目を真っ赤にして。友達から「どうしたの? 大丈夫?」と言われながら。

目が一瞬合った。それは短くも永遠に感じた一瞬。彼女は走って帰って行った。

俺は…勇気が無かった。ただ『好きだ』と言えない自分が憎かった。

親が迎えに来ていた。帰りの車内で泣きまくった。

後悔。この半年で俺が覚えた小学校最後の言葉。一歩踏み出せる勇気が欲しかった。

今年で俺は21歳。明日、告白する。

初めて好きになった人が上京するのだ。

あの時に学んだ後悔は二度と繰り返さない。

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