俺が小学生の頃、家のすぐ近くにお好み焼屋があったんだ。
その店はお婆さんが一人でやっているお店で、細々と続いていた。
俺はその頃いじめられててさ、でも家に帰っても家族には何も言えなかったんだわ。
母に「何かあった?」と悟られそうになっても「何も無かった」と言い訳してさ。
言うのが辛かったのか言えなかったんだ。
※
ある日、いじめられて帰る時にそのお好み焼屋のお婆ちゃんと出会した。
泣き腫らした顔で沈んでいたからだろうな、
「どうしたんよ? これでも飲みながらばあちゃんに話してみな?」
と言う。
親しかった訳じゃないけど、大泣きして全部話した。
その婆ちゃんは何も言わずに頭を撫で続けてくれたんだ。
売り物のラムネを出して来てくれてさ、優しくなだめてくれたんだ。
※
その日から、お好み焼屋を覗いては遊びに行く日々が続いたんだ。
お婆ちゃんは笑顔で迎えてくれてさ、コーヒーゼリーとか色々出してくれた。
でも俺は相変わらずいじめられる日々で、泣いてはなだめてもらっていた。
笑顔の日と泣き顔の日があるから「今日は笑ってるねぇ」とか「泣いてるなぁ」と言われていた。
俺はそんな婆ちゃんになだめられていた。
※
ある日、婆ちゃんがいつになく真剣な顔で言ったんだ。
「笑顔でいるんだ。笑い飛ばせばいいんだ」
何のことか解らなかった。でも俺は頷いていた。
それから程なくして、婆ちゃんは引っ越してしまった。
老人ホームに入ったのだそうだが、俺は凄く寂しくなったよ。
※
あれから十年、大学生になった俺に婆ちゃんの家族から手紙が届いた。
大往生で命を全うしてお亡くなりになったそうだ。
婆ちゃんは最期まで俺のことを覚えていてくれたらしい。
一緒に手紙が付いていた。
中身は優しい言葉と、思い出に詰った日々を語る婆ちゃんの文字だった。
※
もうすぐ、僕は二十歳です。
笑顔で笑い飛ばしたよ、婆ちゃん。いじめもそれでなくなったんだ。
あのラムネがもう一回飲みたいよ。大きくなった僕を見て欲しかったな。
ありがとうございました。僕は笑顔で生きて行けます。