結婚して子供が出来て、ホカホカした食卓にみんな笑顔で並んでたりして、時々泣きそうなほどの幸せを噛み締める。
荒みじんの玉葱が入ったでっかいハンバーグや、大皿一杯の散らし寿司。妻と子供には、自分が子供の頃に満たされなかったものを埋めてもらっている。
ケチャップで名前を書いたオムライス、釜で炊いたお米の綺麗な狐色のお焦げ、ジャガイモとニンジンのゴロゴロしたカレー。
みんな夢見るだけで一度も与えられなかったものだ。
年の数だけロウソクの立ったケーキも。
何だか三十歳を過ぎた今になってようやく、切ない気分にならずに見られるようになった。
最初の頃は幸せな食卓に座るたび『何で俺がこんな所に居るんだろ』なんて思ったけど。
子供には自分が経験したような一人きりの惨めな食卓とか、親も不在で金も食べ物も無くてひもじい思いなどは絶対にさせたくないな。
うちの親は本当に酷かったの。きっと当時のうちのご飯を見たら、みんな残飯かと思うよ。
幸か不幸か自立して生きて来られた。優しい嫁とも出会えた。元気な子供も出来た。
だから、俺はきっと神様は居ると思う。
※
新婚当時は妻に出された物を食べていた。暫くして(確か長男を妊娠した頃だったか)、
「ね、好きなもの何でも作るよ、何食べたい?」
と聞かれたから、思わず
「おっきいハンバーグ」
と答えた。
我ながら三十歳を過ぎて何言っているんだ思ったけど、妻はニッと笑い、小さ目の座布団のような超巨大ハンバーグを作ってくれた。
俺のことを見ていて、何か感じたのかな。爪楊枝のちっちゃな旗が立っていて、お手製ハンバーグソースで『○○くん(はぁと)』と書いてあった。
俺は妻だけではなく、初めて家庭と母親を手に入れたんじゃないのかな。